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「四畳半神話大系」のカステラ
本日の一冊
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四畳半神話大系 森見登美彦 著
あらすじ
私は冴えない大学3回生。バラ色のキャンパスライフを想像していたのに、現実はほど遠い。悪友の小津には振り回され、謎の自由人・樋口師匠には無理な要求をされ、孤高の乙女・明石さんとは、なかなかお近づきになれない。いっそのこと、ぴかぴかの1回生に戻って大学生活をやり直したい!さ迷い込んだ4つの並行世界で繰り広げられる、滅法おかしくて、
ちょっぴりほろ苦い青春ストーリー。
本日の一皿
「大きなカステラを一人で切り分けて食べるというのは孤独の極致ですからね。人恋しさをしみじみ味わって欲しくて」
感想
それは、芽吹き始めた恋心を想起させる発火材であったり、
四畳半漂流を生き延びるためのライフラインであったり、
純粋に仲直りの道具であったり
作中でカステラは様々な役割を担っている。
ロールケーキでも羊羹でもダメ。カステラがいい。
私はこの「カステラ」というお菓子をチョイスする森見登美彦氏のセンスが好きだ。
カステラってなんだかとても中途半端な存在だとおもう。
”おもたせの代表”として高貴なイメージを持つのに、案外リーズナブルで、ほっこりとした庶民的な味がする。
そもそも、洋菓子なのか和菓子なのかさえよくわからない。
(調べると、一応和菓子ではあるらしいが、洋菓子でも和菓子でもあるというのが正解らしい。中途半端だ。)
そんな、なんだか中途半端な感じが、モラトリアム真っ只中の主人公(私)に重なる。
薔薇色のキャンパスライフを夢みて焦る反面、このくだらなく馬鹿らしい毎日が楽しい。
かっこいい大人になりたい、でも阿呆な子どものままでいたい。
(カステラはもっとかっこいいお菓子になりたいとは思ってはいないだろうけど)
そして、そんな(私)に師匠・樋口清太郎は言うのだ
「我々の大方の苦悩は、あり得べき別の人生を夢想することから始まる。自分の可能性という当てにならないものに望みを託すことが諸悪の根源だ。今ここにある君以外、ほかの何者にもなれない自分を認めなくてはいけない。君がいわゆる薔薇色の学生生活を満喫できるわけがない。私が保証するからどっしりかまえておけ。」
まさしく。カステラがロールケーキになれないように(私)も薔薇色のキャンパスライフを送るような人間にはなれない。
あり得もしない人生を夢想して、今をおろそかにするのではなく、このどうしようもない自分を受け入れ、今を大切に生きろ。
人生には無駄と思われることがたくさんあるけれど、大人になって振り返ってみたらすべて意味があるように思う。
中途半端でいいんだよ。
四畳半ですごす悶々とした、馬鹿らしくも楽しい日々は、一見無駄に思うけれど(私)にとってかけがえのな大切な時間なのである。
カステラについて
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アニメの作中では京都の「大極殿本舗」の春庭良(カステーラ)がモデルとして描かれかれている。
春庭良は、底にザラメが敷き詰められていて、新鮮な卵をふんだんに使っているらしい、生地がこっくりとした綺麗な黄色。
ふんわりと濃厚でおいしそう。店先に行列ができるんだとか。
ぜひ実際をみてほしい。今にもほんわりと甘い香りが漂ってきそうだ。
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