数って大事なの:エジさんが来る
アメリカ人のエジさんは今日も喫茶店『ボストン』へ。マスターがカウンターの奥で英語の参考書を読んでいます。
「マスター、勉強してますね」
「うん。とにかく毎日少しでもできるだけ休まずにやってるよ」
「いい心がけです」
「日本人の我々は朝から晩まで日本語を話してるわけだから、同じようにしないと外国語はおぼえられないもんね」
「素晴らしい」
「あのさ、英語って数のことをことさら気にするよね」
「そうですかね」
「こだわっているのに、サムズ・アップって言うだろう、あれはなぜ thum が複数形になっているのかわからないんだよ。おかしいよ」
「ああ、あれは『片手の一本の親指』のことじゃないみたいですよ」
「両手でやらないといけないのか、ダブルピースみたいに」
「違います。あれは大勢からの賞賛という意味があるそうです。つまり、みんながそのことを褒め称えている、ということで、ひとりの一本の指を表しているのではない、ということなんでしょう」
「ややこしいなあ、英語は」
「そうでもないですよ、ヨーロッパのほかの言語ではもっと複雑なのがありますからね」
「へえ」
「たとえば、イタリア語で『ブラヴォー』なんていうのがありますよね」
「オペラとかで言うやつだね」
「そうです。あれは男性単数なら bravo、女性単数に向けるなら brava、舞台に複数の男性がいたら bravi、女性複数なら brave、男女が混ざっていたらbravi、になります」
「面倒臭いなあ。じゃあ女性に向かって bravo はおかしいのか」
「厳密に言えばそうなりますね」
多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。