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テントの外にいたもの:Anizine+写真の部屋

「何か怖い体験をした話をして」と友人にお願いしてみました。

彼女が25歳くらい、アフリカに行ったときの話です。野生動物が出てきそうな草原に外国人観光客用のテント村がありました。安全であるとは聞いていたものの、若い女性の二人旅なので、そこに泊まるか、街の中にあるホテルに行くかは食事のあとで決めようということになりました。

大草原に沈んでいく美しい夕陽を見ながら美味しい食事とシャンパーニュを楽しんでいると、ここに泊まるのもいいかなと思ったそうです。テントとは言ってもキャンプで使うようなものではなく、小さなワンルームの部屋と同じくらいの広さです。いい気分で眠っていた夜中の2時頃、テントの外でガサッと音がしました。最初は風に吹かれた木の枝か何かがぶつかったのだろうと思っていたのですが、不規則にガサガサと鳴る音に「生きているものの動き」を感じたと言います。

寝ている友人を起こし、外に何かがいる、と小さな声で伝えました。ふたりは怖くなってテントの入口から一番遠い場所で震えていました。もしも大型の肉食動物だったら、布製のテントなどすぐに引きちぎられてしまうでしょう。どこからか動物の遠吠えが聞こえてきます。それに反応したのか、またテントのすぐそばでガサッと音がしました。何が怖いかと言って、そこに何が潜んでいるのかわからないのが一番の恐怖です。

友人がバッグの中からデジカメを撮りだし、テントの隙間から写真を撮ろうと言い出しました。何がいるのかがわかれば、少しは怖さが減ると思ったようです。ウサギやリスが写っていたとすれば安眠できるはずです。また肉食獣であっても、フラッシュの光に驚いて逃げていくかもしれません。ふたりでジャンケンをしてどちらが撮るかを決めます。友人が撮ることになりました。恐る恐る15センチくらいの小さい布製の窓から手首だけを出し、シャッターを切ると、すぐに手を引っ込めて窓のファスナーを閉めました。

「ねえ、何が写ってるか、確かめて」
「いやだよ、あなたが先に見て」
「だって怖いもん」
「じゃあ、ふたりで一緒に見よう」

デジカメの再生ボタンを押すと、暗いテントの中を照らすほどの明るさでモニタに写真が映し出されました。ふたりはギャーという悲鳴を上げ、インターホンでレセプションに「街のホテルに戻りたいので、今すぐにクルマで送ってくれ」と伝えました。

モニタには何が映っていたのでしょうか。

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Anizine

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多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。