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ラテン語の語彙の時代相

 言葉は変化する。とりわけ語彙は変転が激しい領域である。
 古代においてもそれは例外ではなかった。

 ラテン語は方言差や時代差が少ないといわれることが多い。
 特に後2世紀頃までについてはそう評価する学者も珍しくない。
 しかしそれでも様々なところに変化は見られる。

 今回は語彙の時代差の例をいくつか紹介したい。


bētō

 bētōは「行く」(to go)を意味する動詞で、高頻度語のeōやロマンス諸語に広く継承されたvādōとほぼ同義関係にある。

 しかし存在を知らなかった人も多いことだろう。
 それもそのはず、この語はラテン語の中でも古い時代に使われていた語だからである(Lewis & Short, 1879, s.v.)。

 我々が学ぶラテン語文献は主に前1世紀~後1世紀頃のものであることが多いのだが、この語は主に前3世紀のプラウトゥスの喜劇に登場する。
 彼の著作には他の文献ではあまり見られない古形や俗語形が見られることが少なくない。 

 この語には奇妙なことにbītōやbaetōという語形も見られ、詳しい語源は明らかではない(古代ギリシャ語のβαίνω「歩く」と同源という説もある)。

 注意点としてbētōが"古語"と呼ばれるのは早くに廃れたからであり、単語としての起源や「行く」という意味での使用開始が他の語より古いとは限らない。

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