FRIENDS チャンドラー役、マシューペリー(カナダの愛され俳優)の死がなぜここまで皆の心を震わせるのか: 身体が破裂するまで埋めたかった心の穴
『フレンズ』チャンドラー役マシュー・ペリーさんが 突然 54歳で死去。自宅の屋外プールのジャクジーで、水中に沈んだ状況で発見されたが、まだ不明点が多々あり「溺死」(英語でいう溺死 'drowning' の死因判定)は、決まっていない。なぜなら、体の中に溺死の時のような水量が発見されていないから。謎な点の調査は継続されているところだが、今、
彼が長年オープンに語ってきた、自身のアル中と薬物依存症の話に、改めて、スポットライトがあたっている。
日本では、メンタルヘルスの話題が全般的にあまり取り上げられにくい環境なのもあり(?)知られていなかったかもしれないが、彼は、フレンズが終わってから、
中毒・依存症に苦しむ人達を助ける活動と、一般社会へ向けての教育・啓蒙活動
で有名で、大きく讃えられてきた。
より多くの依存症の人を助けるため、カリフォルニアのマリブの、以前、自分が住んでいた豪邸(他界された場所とは別宅)を改造し「ザ・ペリー・ハウス」というアルコール依存回復のリハビリセンターとして立ち上げ、運営していたこともある。自分が回復したからこそ、当事者の立場に立ってサポートできるのだと、生涯をかけて慈善活動(フィランソロピー)と教育・啓蒙運動をしていた。
多くの人のハート❤️を、チャンドラー(フィクション)とは違った形で掴んだ、等身大のマシュー・ペリー。
ここカナダでも大勢から愛された存在で、彼自身の死は悲しいものの、何か一つポジティブがあるとすれば、他界のニュースと同時に、
彼の人生をかけたメンタルヘルスの啓蒙活動が、社会を大きくポジティブに動かそうとしている
ところだ。彼は、まさに、それを願っていたのだ。
あまりの突然の死去、
ショックとミステリーが入り混じった最初の数日を経て、徐々に様々な人達がコメントを出し始めている。
マシューの最期の様子
マシュー死去の前日に一緒にランチを食べた友達のインタビューによると、マシューは、自分のドラッグとアルコール中毒の克服の体験を元に、同じ苦しみを抱える大勢の人達の支援活動と啓蒙活動が生き甲斐だった。自分の名声を使って、ファンドレイジング(資金集め)をして、お金がない人でも、自分が受けたような回復支援プログラムやサポートを受けられるようマシュー・ペリー基金を立ち上げようとしている話を明るくワクワクしながら話をしていたという。何も悩みはなさそうで、自分の使命だと感じているプロジェクトに熱心に集中していたそうだ。
また、資金集めの一つとして、アル中・ドラッグ中毒の啓蒙の映画を、マシューの自伝の形で制作しようとしていた(マシュー役には、ザック・エフロン)という話も紹介していた。
回復までの長い戦い
フレンズに出演していた頃から中毒で苦しんでいたマシュー自身は、人生で合計、13~14億円ほど、中毒からの回復のために、お金を費やしていて、サポートの会に6,000回以上出席、15回の入院リハビリと、随分と努力と続けてきたのである。
啓蒙活動の効果
マシューが、これほど効果的に、中毒・アディクションについての社会通念を変える動きに貢献できたのは、世界中の人が観ていた大ヒットTVに出演中、中毒の病気と戦っていたため、中毒に苦しむ本人が、どれだけ真摯に勇敢に真面目に取り組んでいたか、誰でも分かる点だ。
テレビ番組として支障がないように仕上がっているが、舞台裏では、皆んなに心配・迷惑をかけても、やめられなかった話
他のハリウッドスターやロックスターが中毒で亡くなったニュースを聞く度に、死の恐怖が湧いてくるのに、やめられなかった話
素晴らしい仕事や同僚に恵まれて、幸せだと思っているのに、やめられなかった話
人前では、能力に長け、仕事も成功し、役者としての夢も叶い、一時期、大人気女優 ジュリア・ロバーツと付き合ったり、恋愛や友好関係も順調そうで、本人の性格も、明るく、優しく、思いやりのある、つまり、何もかも手に入れたかのような、ハッピーライフのように見える人が、人に見えないところで、しつこく治らない病気と命をかけてバトルしていたことがオープンになったことで、
依存症と縁のなかった人たちにも、アルコールや薬物依存症の本質的なことが分かるようになっていった。
社会通念 & ビクティム・ブレーミング
今となっては、一般社会でも、アルコールや薬物依存症が「病気」として認知されており、他の病気と変わりない、(といっても風邪からガンまで病気も色々あるが、どんな病気であれ)医学的な回復アプローチが取られることは、よく知られている。
しかし、マシューがフレンズに出演していた20年前(フレンズのTV放送は1994〜2004年)は、ひどいことに、社会通念として、アル中・ドラッグ中毒は、だらしがない、ディシプリンがない、教養がない、守るものがない、大した人生経験がない、人生をまともに生きていない人たちと見られる場合が多かった。見下されていたのだ。まったく病理学を無視して、個人の意思が弱くて、人生を棒に振っているように見られていた。
このように、病気と闘っている患者や、事故・災害・暴力に遭った被害者をイジメるような態度をビクティム・ブレーミング(被害者のせいにするという意味)と言う。
マシューが自身の闘病と回復についてオープンに話すことで、この病気に罹っている当事者からの目線で病気の実態を見ることができる人たちが世の中に増えた。
誤解を解くには、話すしかない。
その話をみんながすればするほど、社会通念が変わる。
もちろん彼だけではない。
20年の社会の進化を振り返ると、実に様々な人たちが、依存症についての偏見をなくそうという社会の動きの中、自身の当事者ストーリーを語ることで、社会一般で入手できる情報が増え、社会通念が変わってきた。こうして、より優しい社会は、できてくる。
そして、一人でも多くの人たちが、自身のストーリーを語ることで、多角的に問題が明らかになり、社会一般にも(直接関わっていない人たち:自分が罹ったこともなければ、周りに罹った人もいない人たち)恩恵がある。予防にも繋がるし、誰か知っている人が罹った時、どう支えてあげればいいかも分かるようになる。
中毒になったきっかけとやめられない理由
マシューは、社会に対して、生きづらさを感じていた。現実の世の中は、自分が思い描く「こうあればいいのに」という理想の世界と掛け離れていて、お酒をちょっと飲んだら、「この実世界もそう悪くはない」とホッとしたと言う。
「自分の人生については、何も不幸に思っていないが、客観的に見て、現実社会の汚さ、未熟さ、悲しさを事実として受け入れられなかった。どうにか正したいけど、自分の力だけで正せない。」こういった、感受性と正義感の強い、心が優しい人、つまり、他人が苦しんでいる様子をみて自分も苦しんでしまう人が、アルコールや薬物に安堵を感じてしまう時がある。洞察力・分析力が高くて、社会を理解できれば、できるほど、ダークな気持ちになることはあると思う。
彼の話では、アルコールや薬物は、一瞬にして幸福感(ユーフォリア)を呼び、それなしには、生きていけなくなった。しかし、心の幸福感と引き換えに、身体的にどんどん具合が悪くなり、アルコール・薬物乱用で、何度も病気。
一番最悪だったのは、麻薬(オピオイド)のオーバードース(OD、薬物過剰摂取)のせいで、大腸が破裂して死にかけて、意識不明のなった後、奇跡的に蘇ったと言う。2週間意識不明でECMO(人工肺とポンプを用いた体外循環回路)に繋がれていた間、家族は、生存率2%と聞かせれていて、どれだけ心配したか。
その後も、やめられない。
体が破裂してでも、薬物とアルコールで埋めなくてはならない、果てしない心の穴が空いていたのだ。
少なくても14回はお腹の手術をしている。
結局、回復してから始めたリハビリセンターや、多岐にわたって依存症に苦しむ人々をサポートする慈善活動、偏見をなくすため/予防のための教育・啓蒙活動に注力していたことが、彼がそもそもアルコール依存症になったきっかけだった「社会のダークなところを正したいという」心の深い欲求を満たすことになっていたのだと思う。
Batman(バットマン)が大好きだったマシューは、自分のことをMattman (マットマン、マシューのあだ名はマット)と呼び、世の中の暗いところで、Help(助け)を求める人たちを、ひとり、ひとり、寄り添って、その人自身の生き方に尊厳のあるようなアプローチで回復の長い道のりを支えていた。
他界した後の周りの動き
彼が他界してまだ数日だが、すでに、彼の周囲の人たちで、彼が計画していた基金、
マシュー・ペリー基金
を、急いで設立することが決まった。マシューは、13〜14億円を自分自身の回復のために費やしたが、そんな資金がない人の方が多い。彼のストーリーを使ってファンドレイジング(資金集め)し、お金がない人でも依存症から立ち直れるような世の中を作っていきたいという願いが、叶い始めている。
依存症に苦しんでいる人の周囲の方へ
現実にも仲が良かったTVドラマ「フレンズ」の同僚達は、マシューが苦しんでいる間ずっと、とても心強いサポートだったと言われている。
特に、フィービー役のリサ・クドローの正直な告白に共感する人が多い。
フレンズが放送されていたのは、20年前(1994〜2004年)。当時と比べて、今は、アルコール/薬物依存症について、一般の人が入手できる情報源はたくさんある。
その1、
誰でも罹りうる病気だということ。その人の性格や人生観や態度とは関係ないので、結び付けないこと。病気として治療できるということ。こういった正確な情報を自分がまず知る。それが、希望につながるから。
その2、
長期戦だと受け入れて、アップダウンがあることを受け入れて、いつまでも、安心して頼れる仲間になるよ、と伝える。本人が悪いわけではない。誰でも起こりうる事だとの理解をシェアして、本人が感じている罪悪感や自己肯定感の低さを取り除いてあげよう。
そして、その3、
セルフケア。
周りに依存症の人がいる生活は、想像のレベルを越して過酷になる場合がある。心が通じないような孤独感・悲しさ・寂しさ。努力が実らないような虚無感。罹患者の怒りや憤りの矛先がこっちに向くと、心身的暴力・危険が及ぶ場合もある。話をしたくても、話にならない、覚えていないという場合もある。まず、本人が依存症になっていることを自覚しているか、していないかでも、状況が全然違う。サポートしている、こっちの気持ちも分かってほしいという事を伝えるタイミングがまず、永遠に来ないかもしれない。
わたしもアルコール依存症の人と付き合っていたことがある。自分の心配をするのは、自分勝手かと思って、本人が苦しんでいる間は、まず本人を優先しようとサポートしていたら、自分が空っぽになった。
そんな風にならないように、セルフケアを大事に。
アルコール依存症のサポートをする人を支援するピア・サポート・グループがある。それを試してみるのもあり。
💛 依存症のバトル中の人、サポートしている人、辛くなったら、わたしでよければ、お話を聞きます。お気軽に連絡してください。
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