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A Story

気づいたらここにいた
生まれるとはそういうこと

ああ、いなくなる
死ぬ時はきっと実感がある
のだろう

気づいたらここにいて
いつも隣にいる
むしろほとんどひとりで
いるということを知らない

時折見える空は
眩しくて
時折開いた窓からは
色々な音や匂いがして
本能的に疼くものが
あるけれど
せかいは広すぎるから
ここでいい

眠っていると
時折開いた手が触れてくる
外の匂いがするけれど
その奥にはいつも
同じ匂いがあるのを感じて
ますます眠くなる

時折開いた手が触れてくると
ことばは通じないけれど
その奥の方から伝わるものがある
寂しいのか、悲しいのか
嬉しいのか、それくらいは分かる
思うところはあるけれど
眠ったままにしておくだけで
良いみたいだ

気づいたらここにいて
随分と長い時間が経ったみたいだ

相変わらず
同じせかい
同じ匂い
同じ手がある
変わらないということは
とても心地が良くて
ずっとこのままが
続くと思っている

ああ、いなくなる
死ぬ時はきっと実感がある
のだろう
最近、そんな風に思うことがあった

いつもと違うせかい
いつもと違う匂い
いつもと違う手の感じがした

大層泣かれてうるさかったけれど
泣いてる時のその手は
大層あたたかったし
何とも言えない心地がしたから
まだまだ生きていたい
と思った

もうすぐ節目なのだそうだ
伏し目がちに見たら
覗きこんできたから
そっぽを向いた

思うところはあるけれど
眠ったままにしておくだけで
じゅうぶん良いみたいだ

◇◇

うめこさんリクエストによる
愛猫奈々さんの誕生日をテーマにした
ショートショートでした



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