マラケシュ
ベランダからはぐれたシーツみたいな
更地の空にかかる雲に潜り込んで
かわりに雨でも降らそうかと思う
人情話が電波に乗って葉はまた落ちる
枯れた振りをするかさかさの唇は
傷みと温度でしみて滲んだ
だから嫌なのに
誰にも聞こえないし、聞かれなくない
雲と同化して最初からほとんど見えない
飛行機雲みたいで、跨いでも、目立たない
誰も知らないし、知られたくない
ピックの先で指の腹をなぞるポケット
不条理も不合理も上の歯と下の歯を
擦り付けて、噛み締めて整合する
胸の音を最期まで聞くことができるのは
私自身しかいないから
誰にも聞こえないし、聞かれたくない
それでも誰かを求めるとしたら
それは愛という気恥ずかしくて
使い古されたものかもしれないね
あぁ、嫌だね
確信めいた予感は決まって雨が降る少し前に
気づくことができる
自分が何なのかそれで知ってしまうけれど
圧倒的な欠落にも気づいてしまう
だからかわりに雨を降らすしかなくなるのよね
どうかしてるみたい
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