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デザイン事務所が手がけるレストランの内装大公開/神泉Hone 後編[事例でみる空間設計⑦]

私たち& Supplyが運営しているスタンドバー・レストラン「Hone」。
オープンから1年が過ぎた今、開店に至った背景や空間のこだわりポイントについて、前編と後編に渡って設計担当の土堤内と山川が当時を振り返り解説します。

前編は、出店動機や物件選びのポイント、店舗に併設する事務所エリアの空間デザインについてを紹介しました。

こちらの後編では、特にHoneのレストランエリアにスポットを当てています。デザイン事務所が手がける飲食店の内装について、何を目指してどのようにデザインを構築したのか解説していきます。


自店だからできる設計計画

Honeは2022年1月に物件契約をし、内装の具体的なデザイン計画は翌月の2月にスタートしました。

当初のオープン目標は7月1日。
家賃は事務所スペースと飲食スペースを含めて約80万円です。
4月からは空家賃が発生するため、設計と工事にじっくりと時間を掛けられるわけでもありません。そのため、物件契約後は店名や運営スタイルの具体的な検討と同時進行で空間デザインのアイディア出しをしていきました。

普段クライアント案件の場合は、運営スタイルや想いについて詳しくヒアリングしたのち、その中で出たキーワードやビジョンからまずはコンセプトを決めます。クライアントと同じゴールを目指して円滑にプロジェクトを進めるためにも、常にお互いが立ち返る起点としてコンセプトを定め、それを軸としてデザインを構築するやり方はよく取る手段です。
しかし自社店舗のデザインは敢えて、ノーコンセプトの中でその時々にやりたいことを詰め込む、その創造性の発揮を重視したため最初にコンセプト決めをしませんでした。

工事がスタートしてからも、社内でその時のフェーズやコンセプトという枠にとらわれずに、自由にアイディアを出し合っていました。
その都度デザインの修正が発生し、工事が遅延することがあったり、結果として内装にかかる最終の合計金額がはっきり出る前に決断した箇所も多々ありました。

このように一筋縄では行かなかった自店舗の設計計画は、〝空間が先走りせず、この場所でサービスをする「スタッフ」と食事の時間を過ごす「お客様」と「お店」が三位一体となり、一つの体験として記憶に残る場所となるように〟と、妥協せずに自分たちが今最高だと思える空間を目指した結果でもありました。

Honeの開設は、そんな想いを持ちながらチームで進めた& Supplyの一大プロジェクトです。
この空間で実際に働きながら当時を振り返ると、あの頃は進め方がゴタゴタだったな〜と反省点も多々あります。
しかしながら、ここ1年で社員が増え、お店を知ってくれるお客さんも増え、飲食と空間を使って自社ができる領域をさらに広げることができたのはHoneという空間ができたから。よい転期に携わることができて本当によかった!と今は自信を持って話すことができます。

他にはない「らしさ」をデザインする。

先ほど「コンセプトは作らなかった」と話しましたが、ただやみくもに好きなアイディアを組み合わせるだけでは、その空間の中で提供する体験と全くチグハグなものができてしまいます。
自店舗を設計する上で、私たちにしかない「らしさ」を表現するために心がけた軸が2つありました。

まず一つは、「Hone」という店舗の名前にあります。

「Hone」は英語で〝磨く、磨きをかける〟という意味があります。

前編でもご紹介しましたが、「Hone」は& Supplyにとっての3店舗目となる実店舗です。
1号店のストリートバー「LOBBY」から始まり、姉妹店の「nephew」ではカフェとバーの二毛作にチャレンジしてきました。
3店舗目は〝レストラン〟という更に新たな業態に挑戦をすることをきっかけにスタート。
& Supplyの新たな新境地として、「自分たちの技術やアイディアに磨きをかける場にしたい」という思いからも、この言葉はまさにぴったり!と全員一致で決まりました。

そして店名だけでなく、店舗の空間にもこの「磨く」というニュアンスのデザイン要素を用いることに。
この店にしかない、Honeらしさを視覚的にも感じられるようなポイントを素材やディティールで表現しています。

例えばカウンターや天井の見切りには、鏡面のステンレス素材、天井にミラー照明をとり入れて、「磨く」を現しました。

下がり天井の見切り、照明をミラー素材で「磨く」イメージ

また、家具には角が取れたアーチや円などのディティールを随所に用いることで、磨かれることで、角が取れて丸くなるイメージを表現しています。



二つ目のポイントは、&Supplyのデザイン製作に欠かせない指針です。
それは「再現性がない空間」であること。
私たちの作りたい「再現性がない空間」とは「日本で他に類を見ない空間」そして「元の空間が持つ特徴を最大限活かす空間」です。
また、高価な素材やアイテムを盛り沢山使うのではなく、日常的に馴染みのあるもの新しいアイディアを用いて形にすることも目指しています。

1号店からこの指針が変わらないことで、新店や既存店を含めて、どの店舗でも私たちの世界観や強みが伝わり& Supplyらしさを表現することができています。
「Hone」でもこの& Supplyらしさを空間で表現していきました。



レストランスペースの見所を紹介

ここからはレストランスペースの見所を紹介していきます!

身近な素材を照明に使ったダイナミックな「階段室」

Honeの入り口扉を開けるとまず目に入ってくるのがレストランスペースへと続くこの階段です。
元のテナントの階段を活かしており、ゆったりとした広さがあります。
壁面は斜めにカットされたオークの装飾が特徴的。
2階へと続く階段室は、左右と上下の壁面にこのモチーフが続きダイナミックなエリアです。

床にはヘリンボーンのフローリングを。
こちらは一般的なヘリンボーンとは貼り方を変えてアレンジを加えました。
細かい端部の収まりの加工に大工さんを苦しませてしまった箇所でもあります。

そして天井を見上げると、有効ボードから光が漏れる仕掛けにしました。
ロフトの床裏にラインの間接照明を仕込み、壁に使うものと同じ有効ボードで穴が同ピッチになるように天井を塞いでいます。穴から均一に光が漏れて、階段全体が柔らかく照らす光で2階へのワクワク感が増す特別なエリアとなっています。

壁面に使うことが多い有効ボードを天井の間接照明として採用。


階段室からちら見えする「テーブル席」

Honeの特別なエリア、階段室にはもう一つのとっておきの特徴があります。
1階から階段を見上げると、階段室の正面の壁を大きく開口してあり、ステンレスのバーのすぐ先に客席を配置してオープンな客席をつくりました。

大きな開口から見える2Fの客席は、4名〜6名ほどがわいわいと食事を楽しめるレストランのテーブル席になっています。
ここはグループで使うことが多い席なので、Honeに来店してくる人達をみんなで迎えるような気分で楽しむことができます。

客席の一部をオープンにすることで、2Fの活気が1Fへ伝わり、スタンドバーに来た人もレストランの気配を感じることができる仕掛けに。
「今度はこの席でも食事がしたいな」といろんな用途で使いたいと思ってもらえるような席作りをしました。

照明は、イサムノグチのAKARIシリーズで有名なオゼキが販売している「EDOHOTARU BY-S」。(ロンドンのデザイナーEdward Barber & Jay Osgerbyによってつくられたプロダクト)

この照明は1灯吊りで存在感がありながら、まわりの内装のカラーを拾わずにモダンなデザインで空間を特徴づけられるため、私もお気に入りです。

販売元のオゼキさんは岐阜に本社がある会社ですが、東京にも営業所があります。こちらではAKARIやEDOHOTARUの実物の取り扱いラインナップが全て見れて在庫があればその場で購入もできるので、提灯照明を探している方にはおすすめです!


ウォークインできる「セラータワー」

2Fに上がるとすぐ左手に見えるのが、300本ほどワインを収納できるセラータワーです。
隣接する扉の奥に見えるデザイナーが仕事をしている「事務所エリア」との間仕切り壁に面しており、床から約4mの巨大なワインセラーをつくりました。
レストランに来た方が必ず初めに目に着くポイントです。

ナチュラルワインをドリンクのメインとして提供することとなり、
ワインの店としてお客さんがワインを自身で選ぶ体験ができるようにと、人が2名入ることができるサイズ感にしています。

セラー室を造作で製作するのは今回が初めてだったため、設計当時は都内のワインバーをいくつか梯子し、ボトルはどのくらいの量をどのように管理しているのかや、造作のセラー室を持つ店舗、店主おすすめのワインバーなどをお店の方に伺い、いろいろとアドバイスをいただきながら作り方を考えていきました。


1Fの厨房が見える「円のハイカウンター」

2Fに上がるとすぐ、右手に見えるのがHoneのレストランのアイコンとも言える円のハイカウンター席で、6名まで座れます。

この席は、なかなか気づけないような、けれども気づくと壮大なギミックを1つ作りました。
それはカウンターの天板です。
天板は、大理石で中央はガラスが嵌め込みとなっています。
ガラス部分を覗くと1階まで吹き抜けとなっており、ちょうど真下でシェフ達が料理の盛り付けをしている様子を見ることができます

天板のガラスを覗くとちょうどシェフが盛り付けえをしている様子が見える

これはデザイナー土堤内のアイディアで、一つの円の中心を基準として、1Fと2Fのレイアウトを連動させるギミックによってガラスの天板の真下が厨房の中心になるようにつくりました。
具体的には、1階のスタンドの半円のカウンター、床のテラゾーとフローリングの貼り、天井の円の開口、2Fの円のカウンターの全ての円が同じ中心を基準にして成り立っています

1Fの厨房から天井の開口を除くと2Fのカウンター上の照明「ヤコブソンランプ」が見える


円のハイカウンターの奥には、横並びのカウンター席があります。

この席はバーテンダーと会話を楽しみながらカクテルメイクを間近で堪能できるため、お一人からもおすすめできるライブ感溢れる席です。
バックバーは、既存の建物の年季の入った窓サッシを隠しつつ、光を取り入れることができる麻布をチョイス。収納の扉にも用いて木と相性の良い暖かさの感じられる空間にしました。

4名座れるカウンター席。


セラー室を眺めながら飲めるカウンター席で一人飲みにもおすすめです。


カウンターの天板はオークにガラスが嵌め込んでおり、この開口も同様に1Fの天井の開口と連動しているギミックになっています。
覗いて何が見えるかは、お店でぜひ体験してみてください!

オークのカウンターの一部がガラスになっている。


二癖ある「ボックス席」

最後にご紹介するのは、レストランの奥にあるボックス席です。
躯体の入り組んだ壁を活用して、入り組んだ形に作られたソファがユニークな席になっています。

湾曲したソファ席は人数に合わせてレイアウト変えをして2名〜8名まで対応できる。

また、ボックス席の突き当たり(写真右上)は、段差を登ると2名のハイカウンター席の天板がソファ席に被さるようにしてつくられています。
この席は他の席とは視線が全く変わり、テーブル席やカウンターを俯瞰して見ることができる特別感があります。

ボックス席の奥のハイテーブルは記念日にもおすすめです!

以上、レストランスペースの見所のご紹介でした。
どの席も素材合わせやギミックが既視感のない空間となっています。
座る席によって雰囲気も大きく変わるため、シーンに合わせて違った席で楽しんでいただけると思います!

さいごに

Honeは、レストラン全体を使った貸切利用も可能です。
結婚式の2次会会社の飲み会など特別なシーンに、記憶に残る空間と食事を提供できるのでぜひご相談お待ちしています!

長くなりましたが、ここまで読んでくださった皆様ありがとうございました!

Honeは、自分たちもお客様もここでの体験を通し、「感覚を研ぎ澄まし、自身を磨く」という想いを込めて、& Supplyのデザインチーム、パートナーである大工さん、家具屋さんといったたくさんの方達ので手が加わることでつくることができた空間です。

デザインを自ら手がけることで、私たちの世界観を細部に至るまで余すことなく表現しました。

訪れた方々の感性を少しでも研ぎ澄まし、新たな体験を得る場所となることを願っています。

文:山川佐子

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