夢TRY科 - 非民主的な主権者教育 - 東大阪市
「市民教育」と題された、民主的とは思えないテキストが大阪の公立学校で配付されています。
東大阪市では、市の独自のテキスト「未来市民教育 夢TRY科」を公立の小中学校に配付しています。
これに関する質問・意見を市教委に提出し、回答を得ましたので共有します。
ラグビーの刷り込み教育に偏向するなど問題があると感じます。個人の内心に関わる問題です。こんなもののどこが「市民教育」なのでしょうか。
本記事ではラグビーが題材になっていますが、それは思考の材料であって、本質は、主権者教育とは何か、という問いです。
本テキストの概要
この「テキスト」は「教科書」ではありません。教科書は検定を受けますが、本テキストは受けていません。
内容は、おおむね社会科です。
おそらく、「主権者として求められる力」を育成する教育(主権者教育)のテキストとして作成したのかもしれません(推測)。
そういう意味で本記事は主権者教育とは何かという問題提起でもあります。
「地域の特色である」と称して、子どもに「ラグビーのまち東大阪市」を刷り込み教育をすることの是非論です。
本テキストの目次は次のとおりです。この目次にとどまらず、本文のあちこちにトライくんが配置されています。
私は市民として、令和4年(2022年)7月26日付けで市教委あて意見・質問を提出し、8月5日付けで市教委から回答を得ました。下記の1から3までが、そのやりとりです。
1.内容の妥当性
本テキストは学校に置いたままなので、保護者は内容を見ることはできません。
テキストの内容が独善的であることが問題です。その原因は、市教委が独断で作成したことにあります。
(1)私が市に提出した意見・質問
(2)市教委からの回答
(3)情報公開請求
私は、情報公開請求で、業務委託契約書を入手しました。
委託業者:東京書籍株式会社関西支社(選定委員会による推奨業者)
委託金額:テキスト28,000部の印刷・製本等込みで約18百万円
業務委託期間:2018年6月15日(契約締結日)~2019年3月31日
(4)回答への私の感想
ア 妥当性について
内容が妥当であると評価をするためには、教科書検定のような策定手順を踏んだ上で、テキストの内容を含めて全てを公開する必要があります。
「テキストとしてふさわしいものとなるよう推敲を重ね」ることは、作成行為として当たり前のことであって、内容の妥当性を高めることの説明になっていません。
「アンケートを実施し、事業実施の参考とし」たことも、作成行為の一部であって、内容の妥当性を高めることの説明になっていません。
イ 公開について
「教科書」は、民間の出版社が作成しており著作権問題があるため、ウェブサイトで公開しないのだろうと推測します。また、教科書は、どこの図書館にも配架されていません。
本テキストの業務委託契約書には、著作権は東大阪市教育委員会に帰属する、と定められています。本テキストは公費で作成しました。東大阪市立図書館には配架されています。なので、取扱いは、役所が一般的に公表している報告書・計画書の類と同じです。
「教科書をウェブサイトで公開していない」ことを理由として、本テキストもウェブサイトで公開しない、という論理は誤っています。
「市民教育」という趣旨もあり、全部を広く公開することが当然です。
2.ラグビー偏向教育
東大阪市役所は「ラグビーのまち」を標榜しています。
しかし、それは、政治・行政が行っているのです。
公教育は、政治・行政から独立している必要があります。
公立学校で、子どもに「ラグビーのまち東大阪市」を教えることは、子どもがラグビーを愛好することになります。これは、子どもの内心を操作しており、主権者教育のあり方を考える上で重要です。
(1)私が市に提出した意見・質問
(2)テキストの該当箇所
本テキストの「夢を追い求めるラグビー」の画像です。
(3)トライくんが頻繁に出現
本テキストには、トライくんが頻繁に描かれていますが、その一例は次のとおりです。
(4)市教委からの回答
(5)回答への私の感想
市教委の回答を私なりにまとめると次のとおりです。
この論旨の論点は次の3点です。
1.ラグビーは東大阪市の特色なのか。
2.ラグビーを題材にした場合、東大阪市に愛着を持つのか。
3.「ラグビー愛好を促すものではない」のは事実なのか。
1.ラグビーは東大阪市の特色なのか
東大阪市には50万人の市民がいます。趣味娯楽は多様です。それにも拘わらず、他の趣味娯楽を無視して、ラグビーが特色であると言い切ることは不当です。
「ラグビーのまち東大阪」というフレーズがありますが、このようなフレーズに接した場合、「変だぞ」と感じるだけの教養を身につけておきたいものです。
ラグビーが特色であると言い切っているのは、東大阪市においてラグビー愛好者が政治力を持っているからです。ラグビー競技は、面白くはありません。政治があるのでラグビーがある、政治が無ければラグビーも無い、ということになると思います。
2.ラグビーを題材にした場合、東大阪市に愛着を持つのか
ラグビー愛好者が、東大阪市への愛着を持っているのかどうかは疑問です。東大阪市に寄生しているだけでしょう。真に、東大阪市民への愛着があるのであれば、他の趣味娯楽をも尊重するはずなので、「ラグビーのまち」などと言い切るわけがありません。
思考実験をしてみましょう。
仮にラグビーが東大阪市に無い場合を想像してみてください。
その場合であっても、東大阪市に愛着を持つようにした方が良いです。
何故なら、住んでいるまちですから。
つまり、そういうことです。住んでいるという、ただそれだけの理由で、愛着を持つようになれば良いのです。
ラグビーを題材にする必要性は全く無いのです。
では、何故、ラグビーをわざわざ題材にするのでしょうか。
それは、東大阪市においてラグビー愛好者が政治力を持っており、教育を通じて子どもの内心を操作し、ラグビーを普及させたいからである、としか考えられません。
3.「ラグビー愛好を促すものではない」のは事実なのか
市教委は「ラグビー愛好を促すものではない」と主張していますが、それは事実でしょうか。
テキストにおける描き方はどうでしょうか。
テキストには、トライくんが頻繁に描かれています。
テキストを見れば、本心は、ラグビー愛好を狙っていることは見え透いています。
ラグビーというものは、趣味娯楽ですから、愛好の対象なのです【ここ重要】。
確かに、「ラグビーを愛好しよう」という趣旨の言葉(Verbal communication)は記載されていません。
しかし、ラグビー選手の格好をして、「トライ」というラグビー用語を使用しているのですから、非言語(Nonverbal communication. NVC)によってラグビーへの愛好を促しているのは確かです。ラグビーは、愛好の対象ですから、それを顕示することは、愛好を促していることと同じです。
ラグビー愛好を促す言葉は明記されていないものの、トライくんを頻繁に描くことによって内心を誘導していることは明らかです。
NVCによりラグビー愛好へ導いているのは事実です。これを否認する市教委は悪質です。
子どもをラグビーの消費者として公教育(税金)で育てる、というのが市のラグビー政策の本音だろうと思います。
東大阪市立日新高校では、ラグビー部にだけ特別にプロのコーチなどが部員(生徒)を指導しています。
「ラグビー愛好を促すものではない」とする市教委の言い分は詭弁であると思います。
公共の教育機関がこのような詭弁を弄し、「市民教育」と称していることは許されません。
ポピュリズム
東大阪市政を見ていると、ポピュリズムという言葉を想起します。
東大阪市のラグビーに関する、他のプロパガンダは次のとおりです。
こんなもののために税金を使っている。
令和4年度(2022年度)、東大阪市は、「マスターズ花園」に400万円の予算を計上している。
何か発表事があると、必ず、トライくんを露出させ、ラグビーを市民に意識させる。
観客がいない東大阪市花園ラグビー場を誇らしげにする東大阪市長。
何故、ラグビー場を誇らしげにしているのでしょうか。
それは、市民生活のためではなく、趣味娯楽のために、東大阪市の行政を営んでいるためです。
ポピュリズム(populism)とは
問題を市長の責任だけにしてはいけません。
スポーツ関係者は、スポーツを、趣味娯楽ではなく、崇高なものであるととらえます。そのようにとらえることにより、税金をスポーツ政策に使うことを合理化しているのです。合理的であると信じさせるため、子どもへの刷り込み教育を行うのです。
公共資源を特定の趣味娯楽に使うことは許されません。
そして、それを、公教育を使って正当化するよう刷り込み教育することも許されません。
主権者教育とは何か、どうするのかという問題提起は重要です!
3.有名人の偏在
(1)私が市に提出した意見・質問
(2)テキストの該当箇所
(3)東大阪市の白地図
東大阪市の枚岡東小学校、孔舎衙中学校及び石切中学校の位置は次の画像のとおりです。市の東側、枚岡地区に偏っています。東の端は山で、山にはほとんど人は住んでいません。
(参考)東大阪市の町丁別人口密度(独自集計)
人口密度の程度は、市内全域に分散しており、枚岡地区だけが高いわけではありません。
(4)市教委からの回答
(5)私の感想
市教委からの回答の論旨は「この3名が子どもたちを支える」ということです。
「東大阪市にゆかりのある方々」という理由は、当たり前なので、わざわざ回答をする必要はありません。
「ゆかりがあるから」という理由を述べるのではなく、何故その3名なのか、選定基準は何か、という疑問に回答する必要があります。
アスリートを紹介することによって、速く走ることが有意義であるかのように子どもを教育しています。東京五輪では多額の資金や公的資源を消耗しましたが、そこまでして早く走ることには意味はありません。
「速く走った」ということは、小学生であれば分かり易いハナシではありますが、それにどれほどの価値があるのか、ということを教育する側はわきまえ、説明できるようにしておく必要があります。
何故、その個人を選定したのか、どこに価値があるのかという説明にこそ、学習の意味があります。速く走ったから、という理由には、何の価値もありません。
テキストの書き方では、単に、メディアで騒がれた有名人だから掲載した、ということでしょう。
なお、生物の仕組みの解明は、人類の普遍的価値に関わるため、学習に値します。
有名人3名の出身学校がある枚岡地区への偏りについては、「ゆかりがある」という表現をすることにより市教委は合理化しようとしています。
しかし、この地理的配置は、地域間格差が存在する、という意識を持たずにはいられません。何故、枚岡地区に偏ったのか、という疑問を持ってしまうのが自然だと思います。すると、富裕層の存在が思い浮かび、相対的に、そうではない人々が想起されてしまいます。個人の努力だけでは成し遂げられないのかなぁ、という思いを持ちます。
社会的事象の取扱い
学習指導要領に私の主張の根拠が書かれています。
小学校学習指導要領(平成 29 年 3 月告示)
※中学校学習指導要領にも同旨の規定がある。
私は、そしておそらく多くの東大阪市民は「ラグビーのまち」を実態のあるものではなく、虚構であると感じている。
しかし、東大阪市役所が標榜をしているのは事実であるため、「ラグビーのまち」は「社会的事象」である。
ゆえに、学習指導要領に基づき、
ラグビーという特定の事項を強調し過ぎており、
かつ、東大阪市を「ラグビーのまち」とする一面的な見解を示しており、
また、「ラグビーのまち」は虚構であるため、
ラグビーの格好をしたトライくんやラグビー関連の記事を、テキストから削除すべきであると考えます。
小中一貫教育
本テキストは、市教委の小中一貫教育推進室が担当しています。
上記の市教委の回答を読んで頂ければ、他の小中一貫教育の施策がどれほどの合理性をもって推進されているのか想像できます。
次のURLに、本テキストをPDF化したファイルを置きました。
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以上