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夏らしいこと。-トムヤムシュリンプ枝豆と冷たいビール-


八月二十日、連載中の雑誌の編集者から、原稿チェックのメールが届き、その文頭にハッとした。

「おはようございます。夏が終わりそうでちょっとさびしくなってます。」

言葉の力はすごい。
一瞬で僕の頭は、原稿チェックを後回しにして、急に夏が終わることを知ったかのように、「何かしたい。何かしないと夏が終わる。」と感情むき出し、貧乏性を発動した。

今年の夏は、海、ビアガーデン、旅行、お盆に帰省といった夏らしいことを何もしていないことに気づく。
いつものなら、何かしらやりたくなる性分なのに、今年に限っては、特に気にすることなく過ごしてしまった。
もしかすると、春に仕事で二回、バンコクに行き、夏を先取りしたからかもしれない。
そんなことを言いながら、急に夏の終わりを知ったので、なんだか寂しくなった。

「ギリギリ夏の八月末。まだ間に合う、感じようではないか、二〇二四年の夏を。」
急いで仕事のカレンダーを見ると急に旅行に行けるほどのスケジュールはない。
お盆も開けて、友達も仕事が始まり、急な遊びには誘いづらい。

「やっぱり食べ物かな」と、脳のスイッチを切り替えてみると、例年より枝豆を食べていないことに気がついた。

少し陽が短くなってきた夏の終わりの西日の中、冷えた瓶ビールに枝豆なんて、今の僕にはピッタリの夏なのではないだろうか。

「やりましょう。最高のビールと枝豆」。

まずは、せいろを水で濡らし、その上にクッキングペーパーをのせて、包丁の先で穴をたくさん開ける。
枝豆を洗い塩をまぶす。海老は、殻の間に爪楊枝を刺して、背ワタを取り、足も取り除く。
それらを、せいろの中入れ、八〜十分程度蒸す。

蒸している間に、つけダレを用意する。アジア食材店や、輸入食品店で手に入るトムヤムクンペーストに塩、オリーブオイル、ライム汁を混ぜるだけなので、とても簡単。

海老と枝豆が蒸しあがったら、瓶ビールと一緒にお盆に乗せ、テーブルまで運ぶ。
瓶ビールをキッチンで開けるなんてことは、御法度である。
席について、テレビに目をやりながら、栓抜きを持ち、手探りで王冠を探し当て、「プシュッ」。これでなきゃ、夏ではない。

冷凍庫で冷やしておいたグラスは、すりガラスのようにくもり、最高の状態。
それに黄金の液体を泡の調子を見ながら注ぎ、間髪入れずにグビグビッと、喉で飲む。
お次は枝豆を二本指でつまみ、タレをディップして、さやごと口の中に入れる。
お行儀が悪いことはわかっているが、豆の位置を前歯で確認し、さやだけを抜き取っていく。
口の中は、トムヤムクンの頭の先から抜けていくような辛味と、ライムの酸味で心地よい。
せいろに手を伸ばし、海老を取って殻を剥き、ディップして、口の中へ。
この味は、トムヤムクンそのものである。
あまりのおいしさに手を拭くことすら待てず、使った指を浮かして、グラスを不自然に持ち上げ、ビールを飲み干す。

空いたグラスをテーブルに「コン」と置いて、またビールを注ぐ。

夏らしいこと、完遂。

材料
枝豆 1袋
殻付き海老 お好きな数(小さめのバナメイエビ10尾ぐらい)
塩 適量(下味用)
〈つけだれ〉
トムヤムクンペースト 小さじ1
塩 小さじ1/2
オリーブオイル 小さじ2
ライム汁 1/4個分

トムヤムクンペーストを冷蔵庫の肥やしにしてしまいそうな方は、サッポロ一番塩ラーメンに入れることをオススメする。他にもチャーハンや、唐揚げの下味など、普段作っている料理に加えるだけで、いろいろと楽しめるはず。冬になったら、トムヤムクンペーストを使ったつけダレで、しゃぶしゃぶをしてみようと思います。

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