おじいちゃんのハーブの天ぷら
「なぜだろう?」人よりも割と早い段階、三十代半ばから、老後のことを考えていた。
友人とのお酒の席で、「最近、興味あること何?」と聞かれ、返事に「老後」と答えると、変な顔をされた。
とはいえ、考えていることは、老後資金などのいわゆるという感じではなかった。
若いうちからレストランでのハードワークを始めた僕にとって、社会との接点は仕事であり、それから解放される老後をいかに楽しむかというのは、とても興味のある事柄だった。
四十代になると感じ方が、やや変わっていった。ただワクワクするというよりは、人生の大半を仕事に費やしてきた者として、今よりも社会との接点がなくなるということに、寂しさを感じることもあった。
その一方で、接点が全くなるなるわけでなく、接し方が変わることにも気づき、「社会と上手に接しながら、自由に楽しく過ごしたい。」そう強く思うようになっていった。
その時がくれば今よりも時間はあるはず。趣味は多い方が良さそうだ。
今の趣味と言えそうなものは、仕事でもある料理、旅、写真、植物の飼育、お絵描き少々、などである。
もう少しアクティブな趣味や、生涯スポーツも足していきたいし、楽器の一つでも弾けたらいいな、なんてことも考えている。
「いくつになってもできる」という言葉は信じているが、老後からいきなり初めたのでは、楽しいと思えるまで、その物事を上達させるのに時間がかかりそうな気がする。そうなるとなるべく早く始めたいものだ。
きっと老後という時間は長い、最初と最後ではできることや、興味を持つことも変わるだろう。
川の流れの中、体を揺らしながらその場に止まる魚のように、抵抗するわけでもなく、流されるわけでもない。
頭も体もそんなふうに柔軟に生きていけたら幸せだろう。
僕は、いくつになってもキッチンに立ちたい。
白髪になっても気持ちは若く、フレッシュに料理を作りたい。
未来の自分のためにレシピを書こう。
会いにきてくれた客人との食事に、庭で詰んだハーブを天ぷらにして、もてなすような。
そんなユニークなおじいちゃんになりたい。
『ホタテとローズマリー、ミント、スモークサーモンとディルの天ぷらのつくり方』
ハーブは、なんだって良い。天ぷらにしようと思っていた具材に相性が良さそうなハーブをくっつけて揚げればいい。
お手軽に天ぷら粉を水で溶いて衣を準備し、ホタテにローズマリーの葉をくっつけたもの、スモークサーモンにはディルを、ミントはそのまま衣にくぐらせて揚げる。
たったそれだけで、思いもよらない美味しさに出会えるのだから、楽しい限りだ。
特にミントの天ぷらを口の中に入れた時の、なにものにも例えようのない清涼感は感動ものである。
食材にどんなハーブが合うかを考えている時や、その天ぷらの味わいに思いをはせる時間がとても楽しい。
参考に家にある料理本を開いて、ハーブ料理は、どんな食材の組み合わせをしているかを見るだけでも、ハーブの天ぷらレシピは、ヒョイヒョイ出てきてくれる。
例えば、えびと玉ねぎをタイムと一緒にかき揚げにしてみたり、ローズマリーと鶏肉を合わせえて天ぷらにしたり。
いつもの天ぷらをハーブに変えるのも面白い。
しその天ぷらの代わりにバジルを揚げてみたり、春菊の天ぷらのようにパクチーを揚げてみたりする。
ちくわの磯辺揚げ風に青のりの代わりに、パセリやタイムを衣に混ぜてみるのも美味しそうだ。
楽しい妄想に終わりはない。
それでもこれぐらいにして、あとは老後の楽しみにとっておこう。
材料 ふたり分
ホタテ 4粒
スモークサーモン 4枚
ローズマリー 1枝
ディル 1枝
ミント 4枝
塩 適量(ホタテの下味)
天ぷら粉 大さじ4と1/2
水 大さじ5
揚げ油 適量
おまけ。
冷蔵庫に余っていたインゲン豆のナムルを天ぷらにしてみたら、美味しかったです。