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絵本「PIHOTEKピヒュッティ 北極を風と歩く」
これは、どちらかというと大人向けの絵本かも知れません。
文を書いている荻田泰永さんは、北極冒険家です。
ピヒュッティとは、イヌイット語で、「雪の中を歩いて旅する男」という意味だそうで、まさに、荻田さんのことです。
その荻田さんの体験を、井上奈奈さんが見事に絵に昇華させています。
言葉は小さな子供には少し難しいかも知れませんが、絵を見るだけで、言葉で表現されている感覚を味わうことはできます。
だから、子供も、もちろん、大人も楽しめる絵本です。
絵本にしてはめずらしく、「あわいにとけいる」と題した、荻田さんによる少し長めのあとがきあります。
その中で特に印象に残ったのが、最後の数行です。
北極を冒険することは、生きることだ。そして、死を感じることだ。その死とは、誰かの命であり、いつの日か自分の体も分解されて、空に舞い、風に吹かれて誰かの命にたどり着く。
北極に吹く風の中には、きっと誰かの命が舞っている。
人間は、決して一人では生きられないし、一人で生まれてきたわけでもない。
自分の前にも後にも、たくさんの命が繋がれています。
その中のひとつの真珠のような存在の自分。
周りの存在もまた美しい真珠のひと粒。
その真珠がたくさん集まって、気品にあふれる輝きを放つネックレスを作っていると思えば、み〜んな愛おしい存在です。
とりわけ、絵本の最後のページが印象深いです。
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いつだって、新しい一日は初めての今日。
さあ、今日もまた、まっさらな一日を歩き始めて、自分という真珠の粒に磨きをかけよう。
後日追記-2023年9月13日
感想を書いた一連の絵本は、実はいづれも、第28回日本絵本賞の最終候補に残った作品ばかりでした。
そして、めでたく大賞を受賞したのが、まさにこの作品でした。
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