熟練の料理人が生みだす魂の皿
1986年に誕生して37年
数多くのグルマンから支持され、ド直球、シンプルなフランス料理を世に問い続ける斉須シェフ率いるコートドール
実は斉須シェフの著書である「調理場という戦場」を新入社員の頃から読んでおり、昔の時代の凄まじい経験を乗り越えたシェフの底力と言葉の力強さに影響を受けていた
しかし取引もないお店にふらっと食事に行くのは20代の時はまだハードルが高く、30代を超えてからようやく様々なお店に緊張せず伺えるようになったがそんな訳でお店には未訪だった
35歳になったタイミングで友人からコートドールに行かない?と誘われた
コートドール…おぉ!コートドール!行きたい!そんな流れでようやく訪問となった
「メニューは僕の誇りです」「十皿の料理」「調理場という戦場」
あの本で見た料理達は実際どう感じるのか
楽しみにしながら店へ
店構え、内装はシンプルで時の洗礼を経た落ち着きのある空気感、そしてサーヴィススタッフの熟練感が凄い。今回の客層の中で最も若いだろう我らに全く緊張をさせない何とも落ち着いた接客
20代の頃に行っても服装さえ間違わなければ全然大丈夫ぐらいの安心感があった
料理は初めてだったのでコースメニューで
よく料理はInstagramで拝見していたが、見るのと食べるのでは天と地ほどの差がある
特にこのお店では
アミューズ
アミューズの小さなバゲットは、写真では全く伝わらない旨さがある
この小さき一口にとびっきりの熱がこもっている
この熱々のバゲットにキンっと冷えたシャンパーニュの温度差が実に良い
やはり人の心を動かすのは落差だと改めて思う
サウナと水風呂が流行ってる理由もそうですよね?
トリュフスープに浮かぶホタテ貝
この直球の料理がとても印象に残った。食べさせたい素材が明確で、それをいかに引き立てるか熟練の腕から生み出されるガルニ、ソースがホタテを支える。大振りのホタテの甘味をほうれん草がソースを吸い下支えする。
シンプルなのに真似できない味
ワインはマルク・ブレディフのヴーヴレ17
ナチュールにありがちなオフフレーバーが苦手なので、クラシック系がずらっとあると安心する。誤解しないで頂きたいのは味ありきのナチュールは全然好き、ナチュールありきのナチュールが苦手。
昔ワイン会でナチュール信者に「会社の仕入れだと点数付けて評価軸をチームで共有しているんです」と話したら「点数をつけるとかお酒が可哀相だと思わないんですか?」とマジで言われて「あ、ナチュール苦手」と思ったことを思い出した。
閑話休題
蜜のようなヴーヴレの旨味が料理全体の外枠を包む
こういうワインを飲ませるお店は貴重だ
普段はムルソーとか合わせるのだろうが、あえてヴーヴレが良い。
たぶん多くの人は高騰し続けるワインが飲みたいわけではなく、料理に合うワインが飲みたい
茹で上げホワイトアスパラガス ドレッシングソース
ホワイトアスパラガスはもう感動だった
潔すぎる、シンプルイズベスト、これで完成、、否、完結させた皿だな、これは
食べた瞬間、
答えがない世界には完成はなくて、完結させないといけないのだ、と薫陶を受けた
この季節にしか食べられない素材を120%活かし、これ以上足せない、引けないという皿は純粋に凄い、というより強い
少しのソースが料理に速度をつける
見た目は全く水分を感じないのに、カットしても溢れ出ない
しかし咀嚼した瞬間、中から素材の水分があふれ出す、どうやっているのだろう
そしてこのホワイトアスパラは素材としてはかなり強い部類に入る為ワインはムルソー
ブシャールは自分では中々選ばないが、グラスで飲めるのにこれほど安心できるワインもない。マロラクティック発酵100%、樽が効き、熟度高くリッチ、「俺はムルソーだ」という味
函館直送カスベ茹で上げ ヴィネガーソース 蒸しキャベツ添え
そして食べたかった一皿がこのエイとキャベツ
時の洗礼を潜り抜けた珠玉の一皿
蒸したキャベツの上にクールブイヨンで煮たエイ、鋭利にカットされた青ネギを載せ、シェリー酢バターをソースとする一皿
これは食べないと想像ができない味だが、例えるなら強い米酢に塩をギリギリまで攻めたシャリで握る大トロ、そんな味わい
酸味を軸に塩を従え、脂肪分が合わさると強烈な旨さに転じる
ワインは王道な若めのピュリニーモンラッシェ
この料理には対抗するより味わいの芯を重ねるようなワインが良い
平川ワイナリーのピュルテも完璧に合うと思う
リドヴォーのステーキ・トリュフソース
メインはリドヴォーのステーキ・トリュフソース
こちらも名物、というかもうこのレストランでは全てが名物なんじゃないか…
カリッと焼かれた表面とトロッとクリーミーなテクスチャー、トリュフソースがミルキーな甘味を引き締める、ガルニは芽キャベツ
ワインはブシャールのシャンボールミュジニー17
これをまたサーヴィスがそれはそれは旨そうにサーヴをしてくれる、よだれがでそうだ。パニエに入れ、高い位置からグラスの角にじっくり落としていく。
その甲斐あってか、ブシャールのシャンボールがこんなにおいしかったかと驚いた。友人もワインは精通しているので、二人してブシャールスゲーなと話していた。
デザートはビターチョコレートのマルキーズとポールジロー25年
カリカリのカカオニブとしっとりテクスチャーの最高の組み合わせ
そのほろ苦さにコニャックのランシオ香が複雑に絡み合うともうたまらない
コースを通して食べ、食後に思ったことは「後悔」
「もっと早く行っておけば良かった」と後悔した
斉須シェフの哲学を食べているような、生き様を喉の奥に流し込んでいるような、この世界観は唯一無二だ。何より自分の答えを追求し続け、到達した完結させた料理の数々。
1つの世界をここまで突き詰めれば人の心を揺さぶるのだと。
私もそうありたい。
早々に次の予約を入れよう
シェフは1950年生まれで現在72~3歳とすると現役で現場に立てるのはいつまでなのだろうか。昔からの常連も多いため、後何回通えるのか考えてしまった。
長年にわたりライバルである友人に感謝。