伝統・文化ということ
自然から色を得られる。
結果として何色であってもそれは自然の色であり、失敗も成功もなく全てが素晴らしいものだと感じています。
自然に対し今よりももっと密接な関係であった古の先人たちは
畏敬の念を持っていたのでしょう。
祈りとも呼べるようなその心はそのまま自然を移し取ろうと
試みたのではないでしょうか。
自然への憧れや渇望を満たそうとする情熱には心が動かされますし
それを現代でも目にすることができて、伺い知ることができるのは
本当に素敵なことだと思います。
染めに限ったことではないのですが歴史の中で生まれてきた物や事に対し
・伝統を守る
・文化を次世代へ伝える
と言うようなフレーズはよく見聞きするところであります。
往々にして
昔ながらの手法で〜
当時のままの技術で〜
と解釈されているように感じますが、
私はそういうものではないと思うのです。
伝統とは常に生きてきた人々の情熱を形にし積み重ねたもの、
それらが繋がって結果的に今に至るということであって、
昔そのままを固定させたものではないと思います。
昔の色の再現を試みる、
昔の手法を学術的に研究する、
ということであれば、その通りに行うのが絶対だと思います。
しかしそれは伝統とは異なるもの
・・・というよりも
そもそも伝統や文化とは後世の人々が歴史を振り返ったときに
結果に対して使う言葉であって
今を生きる我々がその言葉に介入することではないと思うのです。
言い換えますと
未来の結果に対してこうしてやろうなどという
個人の意思や作為はナンセンスだと思うのです。
先人の方々が産み出してきた手法を踏襲しつつもテクノロジーの発展により解明され生み出された新しい理論と技術を用いることは
決して悪い事ではない、悪いどころかむしろその逆ではないでしょうか。
平安以前の時代と比べても鎌倉時代以降ずっと、現代に至るまで
そのようにして染色は発展してきたのですから。
昔とは違うから間違いだ
昔通りでないから偽物だ
というのはいささか窮屈な気がします。
得体が知れていればそれで良いと思いますし、究極的には好き嫌いの判断で構わないと思うのです。