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絶対音感は絶対じゃない 「弾いてみた」耳コピ動画ブームに思うこと

子どもたちのピアノの発表会が終わりました。

ちょうどのタイミングで、耳コピに関するツイートを目にしました。最近のYouTubeにおける耳コピ動画ブームと絶対音感に関しては、わたしも気になることがたくさんあります。ちょっと書いてみました。


絶対音感があると耳コピするのには便利ですが、必ずしも万能ではありません。


絶対音感は3~6歳ぐらいまでに一定量の訓練をしたり、さまざまな音楽をたくさん聴いていれば、誰でも取得することのできる能力です。


耳コピができるからといって、決して音楽的に優れているわけでもありません。音楽家の中には絶対音感がなく、耳コピができなくても優れた人はたくさんいます。


わたしは以前、藤井風さんと絶対音感に関する記事を書いています。

絶対音感を持つ我が子を見ていて気付いたことと、耳コピについて、いま改めて思うことを書いてみます。


我が家の小学生2人は絶対音感があります。


小学校高学年の娘は耳コピが得意です。当然暗譜も早い。ピアノの腕前はツェルニー30番程度、ベートーヴェンのソナタが弾けるくらいです。音楽もピアノも大好きですがコンクールには出したことはなく、ずば抜けてピアノが上手いわけではありません。


息子は小学校低学年ですが、小さなころから多種多様な音楽を聴いているせいか音への感受性はかなり強いです。音楽はオペラやジャズ、映画音楽などジャンルを超えて幅広く興味を持っている。簡単なポップスなら、耳コピでピアノアレンジして弾いてしまいます。


しかし、彼もコンクールなどとは無縁になりそうです。ただ音楽を楽しんでいるだけ。2人ともピアニストにするわけではないので、今は好きな音楽を楽しんでくれればいいと思っています。


でも、そんな2人に共通しているのは「譜読みを面倒くさがる」ことです。

4歳からピアノと同時に、ソルフェージュ(楽譜の読み書き)のレッスンも受けているにも関わらず、譜読みを「めんどくさい」と言います。そしてすぐにYouTube動画で誰かの演奏を探して「耳コピ」しようとするのです。


YouTubeにはたくさんの演奏動画がアップされています。プロの模範演奏からコンクール、お子さんの発表会の様子まで星の数ほどあります。

譜読みをする前に、なんとなく引っ掛かって上がってきた演奏動画を耳コピするとどうなるか。


その演奏者の”弾きグセ”まで耳コピしてしまうのです


とても素晴らしい演奏を完璧に耳コピして弾いたとしても、それは”単なるコピー”でしかないんですよね。

これでいいのでしょうか?本当は自分の言葉で語ってこそ、自分らしい音楽なんですが。


それに比べて、譜読みはまっさらの状態から自分で音を作り上げていく作業です。

楽譜は作曲家からの手紙のようなもの。外国語で書かれた手紙を、辞書で言葉の意味を調べて読み解いていくように楽譜を読んでいく。その曲が作られた文化的背景や、作曲者の心情なども知ることで曲の理解に奥行きが増していきます。


作曲家の指示が楽語などで書かれていることもあります。強弱や緩急の付け方、テンポの揺らし方などを、自分でどう表現するかを考え、工夫して弾き込んでいきます。


絶対音感があって耳コピができるがために、譜読みをして、楽曲への理解を深めていくという作業を疎ましがるようになる。これはYouTube動画がなかった時代でも同じです。


実はわたしも絶対音感があり、耳コピが得意な子どもでした。当然、暗譜も早く、簡単な練習曲なら、先生がレッスン前に弾いてくださる模範演奏を一度聴けば覚えてしまっていました。譜読みは正直、面倒だと感じ、覚えた音を確認する程度。


段々と複雑な曲を演奏するようになっても、古典派(モーツァルト)などの”和声の展開が読めて”しまう音楽は、すぐに暗譜できてしまいます。子どもの頃はモーツァルトがとても退屈でたまりませんでした。(大きくなってからは、予定調和の形式美に気付いて好きになりましたが)


我が子と同じ門下生の中学生で、絶対音感を持っているお子さんがいます。ピアノ自体はとても上手なのですが、彼女も「模範演奏で暗譜してしまうので、自力で譜読みするように、あえて(先生が)聴かせないようにしている」とのこと。

そして「和声の展開が読みやすいモーツァルトなど予定調和の曲は、すぐに暗譜できてしまう。『つまらない』と言って近現代寄りの曲や、ジャズっぽい曲を好む傾向にある」そうです。


一体どういうことでしょう。

絶対音感があると器用貧乏というか、耳に頼り過ぎて読譜が面倒になりがちだったり、暗譜がたやすい単純な和声に対して退屈さを感じるという弊害も発生するのです。


絶対音感があって耳コピもできれば、たしかに便利です。

わたしが子どもの頃はYouTube動画もなく、楽譜もすぐには入手できませんでした。

楽譜の発行されているクラシック以外のPOPSや、最新のヒットチャートで流れている音楽を演奏したければ、耳コピするしか手段がなかった時代です。

学生時代に通信カラオケの音源データ制作の現場で働けたのは、耳コピ能力のおかげですし、メリットは計り知れません。


Yaffleさんもおっしゃっていたように、譜面も音楽データもない状態で頼れるのは自分の耳だけでした。

ただ、聴きとった音を採譜して誰かに伝える時には、データよりも楽譜が一番オリジナルの再現性が高いでしょう。

もちろんデータでもできますが、音楽ソフトを扱うにしても基本は楽譜が読めた方が楽です。何より、耳コピ動画でよくみられる「鍵盤の上にブロックが落ちてくる画像」で曲の展開まで先読みすることは難しいですが、楽譜だと可能です。ソルフェージュ(楽譜の読み書き)の一環で学習する新曲視唱や初見演奏は、自分が弾いている場所より、少し先を予測して先読みしながら演奏するものだからです。


耳コピできて楽譜が読めれば鬼に金棒


絶対音感を持ち、ピアノを自由自在に操る藤井風さん、素敵ですよね。憧れれてピアノを始める方や、彼のようになりたいと思うお子さんも、これからどんどん増えるでしょう。

風さんは音楽科のある高校で、クラシックの音楽教育を受けています。当然、耳コピだけでなく読譜能力もきちんと身に着けているはず。だからこそ、ピアノでアレンジ演奏しつつ、その場で先読みしながらリクエストに答えることができるのです。


わたしは絶対音感の恩恵にあずかったものの、思わぬ落とし穴?に惑わされたクチです。

これからピアノを弾いてみたい、何かしら楽器演奏や歌を始めたいと思っている方や、子どもたちに伝えたい。


「絶対音感があると耳コピできて便利だけど、それと同じくらい、楽譜をちゃんと読めるようになると楽しいよ」

「楽譜は作曲家からの手紙。その人の頭の中身が書いてあって、それを時間や空間を超えて見ることができる。楽譜が読めると音楽の世界が広がるよ」

自称耳コピ愛好家(笑)のわたしは今でも正直、譜読み作業が少し面倒に感じることもあります。

けれども

「くー!このフレーズのあとに、この和声でくるなんてカッコ良すぎるわ!」

と身もだえするのも楽譜が読めるからこそ。

見慣れた譜面でも、改めて眺めてみると新たな発見があるかもしれません。


明日から新しい曲の譜読みをはじめる子どもたちと、かつて譜読みが苦手だった自分への手紙のつもりで書きました。粘土ばっかりでなく、ピアノもちゃんと触らないとなぁ(笑)


藤井風さんのこと、いろいろ書いてます


こんなこともしてます


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