不可逆でツギハギだらけの明日の自分よ
おもちは一度壊れてから3年間、定期的に職場で所謂保健師と面談している。
会社としては若手に退職してほしくないの意思で、それを許可しているのだと思う。数ヶ月に一回、1時間程度の面談は基本は近況と体調を尋ねるものだ。
さて、最近のおもち、ごく稀に眠れないことはあれど、基本的には健全に逞しく図々しく生きている。会社に行きたくないと日曜日に手足が痺れることも、朝にゲロをぶちまけることもなく、元気に会社に行って、同期やお兄さんがたときゃっきゃっして、後輩を可愛がり、ボスと話し合い、先輩とたまに喧嘩して、ジムと整体に行ったりしてなんやかんやけろりと過ごしている。
最近のおもちはとにかく負けたくない。先輩に、この世に、とにかく負けたくないのでなんでもない顔をしてニコニコと仕事をこなしている。
何より今の部署には不条理な攻撃はない。そこには理屈や思いがあって、おもちはおもちの中でそれを噛み砕ける。
3年前、おもちがいた地獄には条理もへったくれもなかったから。それに比べれば何千倍もマシな地獄だ。息が吸える地獄だからここは。
まあここもここでそれなりの地獄なんだけど、なんならおもちが自主的に地獄にしてるとこもあるんだけど。
とにかく、そうしてがむしゃらに、とにかく負けたくないと足掻いて、足掻いて足掻いて暴れまくって、そうしているうちに、いつも思い出していた3年前の不条理な言葉たちをいつのまにか忘れていた。
開き直れたかというと微妙で、やっぱりどうしてあんな目に遭わなきゃいけなかったのかと思い返すことはたくさんある。
それでもそれに、少なくとも取り憑かれなくなったのは現部署にきたおかげだろうと思う。
以前先輩に「女性上司の部署は雰囲気が違うよね、なんというかピリピリしてる」と言われたことがある。
おもちは入社してから現部署に来るまで、ずっと女性だらけの現場にいたからむしろ現部署が物珍しくて、新鮮だった。
「雰囲気違うと思うけど、私前はそれが普通だったから」
と何気なく返すと先輩はやや面食らってから「今のがやりやすいでしょ」と尋ねてきた。
それはまあ、その通りで。やってる仕事の内容もまるっきり違うし、
「それはまあそう。まだ慣れないですけど」
「こっちが普通だから勘違いしないで過ごしなね」
と、なぜか釘を刺されたのだった。
今ならなんとなくわかる。アレを普通にしていたら多分おもちぶっ壊れるどころでは済まなかった。
現場の雰囲気は独特だ、戦場のようなひりつきがある。その中で仕事するのは刺激的な反面、かなり疲れるし相当余裕がなくなる。自分だけじゃなくて周りも。
だから実際一回ぶっ壊れたわけで。この先輩に壊れた話をしたことはないのだけど、酔った勢いで私を追い込んだ要素へのヘイトを吐いたことがあって、多分それを踏まえてのお言葉。
でもおもちは妙にその言葉に救われたのだった。心のどこかでまだ3年前に絶望していた自分がいたから。この人、人間性はいい加減だけど仕事の上では嘘つかないの知っていたので。
とまあそんな話を保健師さんにしたところ、「めちゃくちゃ調子いいじゃん!?!?」とびっくりされた。私もびっくりするくらい調子がいい。
このまま半年過ごせたら面談終わりにしようか〜などと話しながら不意に、
「前の自分に戻れた?」
と、尋ねられた。
おもちはうーん、と唸ってから首を左右に振った。
壊れたおもちは元には戻れない。多分もうあの絶望もしていない、全力で生きていた自分は戻ってこない。
でも一度壊れはしたけど、なんやかんや色々あって色んな人との約束と思い出と言葉で無理矢理修復したおもちはとりあえず立てるくらいにはなったのだ。
壊れる前には戻れないけど、ツギハギした自分は前よりやや強い。先輩を蹴り返せるくらいには。
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