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生きる理由を安直に

起業家という道を経て、今は二作目の出版を目指している橋本なずなです。

文学賞を受賞する夢を見た。
母が亡くなってちょうど半年の、月命日の朝だった。

完解から2年越しにうつ病が再発した。
引き金になったのは些細なことで、原因は明白で母の死だろう。

母が私にとってどれほど大きい存在であったか、死んでから知るなんて嫌味にも程がある。

少し前に、彼と近所の焼き肉屋さんに行った日のことだ。

「 ん ——— 」
「 たっくん、 」
『 ん?どうしたん? 』

「 LINE来たと思ったら公式LINEでさ、 」
「 最近お母さんから連絡こーへんなぁって思ったら、 」


「 お 母 さ ん 、死 ん で た 」


「 死んでたね、そういえば。そうやそうや・・・死んでるんやったわ (笑) 」

私は、笑いながら泣いていた。
零れる涙は、〆の冷麺に ぽとんぽとん と落ちて行った。

母が生んだ孤独は、母にしか救えない。なのに、それもできない。

寂しい?悲しい?

そんな安易な言葉で形容できるものじゃない。

けれどそれは、死の直後に感じた爆発が起きているような “むき出しの感情” ではなくて、淡々と、けれど強烈に、心臓を握り潰されているような “沁み込む感情” だった。


私は一つ、気付いたことがある。

私は、幸せが苦手だ。穏やかが嫌いだ。

“ドラマチック症候群” というものらしい。
暴走(パニック)傾向があって、これまでの人生がハードモードだった人に多く見られる症状だそうだ。

人生が困難で、大変で、苦難を強いられるのは当たり前。
そんな風に心と身体が癖づいてしまっているせいで「 簡単に幸せになっちゃいけない 」「 幸せのあとには不幸せなことが起こる 」と思っている。

無意識的に、自ら不幸せを探しに行くことだってあった。
見つからなかったら落ち着かなくて、あったらあったでもちろん嫌なのに。

だから “幸せになることから距離を取っているのは、自分自身” ということに、24歳にして初めて知った。

私は、拍子抜けした。
『 簡単に幸せになって良い 』『 イージーモードで生きれば良い 』
そんな言葉が、そんな生き方があったなんて、と。


彼との関係は悪いものではないけれど、不安に思うことが多過ぎる。
その不安のうちの幾つかは、先に言った症候群により生産されていることもある気はするが。

私が死にたいと思う時、彼の『 死なないで 』は微塵も響かない。

彼はこの世界でただ一人、私の今の苦しみの全容を知っていて、一番近くで支えてくれている人ではあるが、一番近くで私を傷付ける人でもあるからだ。

『 死なないで 』と言うけれど、生きる為の責任は負ってくれない。
だったら安易に死にたい気持ちにケチをつけるなと思ってしまう。

そんな憂鬱な気持ちでXを見ていた時、私の大好きな漫画 “ブルーピリオド” の映画予告映像が流れて来た。
YOASOBIの群青がBGMになっていた。

——— 好きなものを 好きだと言う 怖くて仕方ないけど 

好きなものを好きだと言って来た、私の24年の人生。
やっぱり私を生かすのは、母でもなく彼でもなく、“好き” という情熱だ。


衝動的に家を出て、電車に乗って梅田まで来た。
彼に思うことがあること、死にたいと思ってしまうこと、けれども情熱に生かされて衝動的に動き出したこと。

それを一番仲の良い友人にLINEをしていたら、彼女は言った。

〈 偉すぎる、天才 〉


〈 そ れ で こ そ 私 の 友 達 〉


あぁ、これで良いかって思った。
暫くの間は、彼女の誇れる友達であることを生きる理由の一つにしても。

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