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寅さんに興味深々の小津安二郎好き映画マニアへ


寅さんを観続けてもうすぐ20年。たくさんの人に『男はつらいよ』を観てほしいという思いから、依頼いただいた内容をもとに好みや性格をお聞きし、おすすめの3本をご紹介します。
 


依頼者からコンシェルジュへの希望

マロンネコさん 大学生 20代男性  寅さん鑑賞経験なし
 
 「男はつらいよ」は観たことがないですが、映画が大好きで、最新公開作から古い名作を邦画、洋画問わず観ています。山田洋次監督の先輩でもある小津安二郎監督の映画もよく鑑賞します。ちなみに一番好きな映画は『蛍火の杜へ』です。ノスタルジックな雰囲気と切ないストーリー、温かい作画や美しい音楽が素晴らしいです。登場人物の機敏な心の動きが丁寧に描かれている点も魅力です。
映画を観るときは、感情を揺さぶられ、鳥肌が立つようなシーンがあるものが好きです。起承転結はあまり激しくなくていいので、人間ドラマの面白さを楽しみたいタイプです。寅さんは多すぎて何から観ていいのかわからないので、ぜひ教えて欲しいです。


小津安二郎監督との比較も楽しめる

マロンネコさんは、映画をたくさん観ておられてかなりマニアックな知識をお持ちでした。20代ですが、最近の作品だけでなく、小津安二郎監督の作品など古い映画もよく観ておられます。「男はつらいよ」の監督・山田洋次氏は、小津安二郎監督に影響を受けたということもあり、「男はつらいよ」にとても興味をお持ちの様子でした。
また、マロンネコさんは、大学で文学を専攻されており、その他にも、芸術、自然科学などに興味をお持ちで、油絵、囲碁、乗馬に取り組んでおられ、多趣味な印象がありました。また、真面目、思考しすぎてしまうという性格や、派手な映画でなくとも、人間ドラマで感情をゆさぶられるものが好きということを伺いました。そこで、ドタバタ喜劇要素が強い作品は選ばず、人間模様を楽しんでもらえる作品をおすすめすることにしました。

目が肥えた映画マニアへ『男はつらいよ』名作中の名作

※以下、作品の内容を記述します。

①第1作「男はつらいよ」

公開:1969年 
マドンナ:光本幸子
ロケ地:奈良県奈良市

あらすじ:約20年ぶりに車寅次郎が実家である、東京葛飾柴又の団子屋に帰ってくる。妹のさくら(倍賞千恵子)や、おじ(森川信)、おば(三﨑千恵子)たちと感動の再会を果たす。ところが、寅次郎はさくらのお見合いの席での下品な振る舞いをしたり、近所の人たちとけんかしたり、恋をした冬子(光本幸子)につきまとったりと騒動をひきおこす。やくざな兄貴を持ったさくらは結婚できるのか。

第1作目は、現代の映画やドラマを見慣れている方にとっては、古い作品で観づらいと感じられるリスクがあり、寅さんの穏やかで優しい雰囲気(8作目ごろから出てきます)があまり描かれていないことから、おすすめの3本に入らないことがありますが、古い映画も多数観ておられるマロンネコさんには、この点を伝え、おすすめしました。「男はつらいよ」にとても興味を持ってくれていたので、登場人物の設定を理解してもらうためにも、第1作目がよいと考えました。

②第16作「男はつらいよ 葛飾立志篇」 

公開:1975年 
マドンナ:樫山文枝
ロケ地:山形県寒河江

あらすじ:「何のために学問をするのか」の問いに対する寅さんの答えとは。考古学を研究するマドンナ・礼子(樫山文枝)はとらやに下宿します。寅さんは礼子に勉強を教えてもらうことになりますが、その動機はいったい・・・。礼子の上司で変わり者の田所教授(小林桂樹)も登場し、まさかの展開に。ほとんど勉強をしていない寅さんが、大学教授の田所に「師」と仰がれるあべこべなシーンも。

マロンネコさんは、大学で勉強されている文学にも興味が深く、これまでの人生で頑張ってきたこととして勉強を挙げておられました。また、真面目で考えすぎてしまうという性格も踏まえ、「学問」というものを様々な面から描写した本作をご紹介しました。

③第17作「男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け」

公開:1976年 
マドンナ:太地喜和子 
ロケ地:兵庫県たつの

あらすじ:一文無しで飲み屋にいた小汚いおじさん(宇野重吉)を寅次郎は、親切に家に泊めてやります。実はそのおじさんは画家で、その場で描いた絵を「売ってきてくれ」と寅次郎に頼みこみます。
古き良き播州たつのの町では、寅さんと芸者ぼたん(太地喜和子)が「所帯を持とう」と言い交わします。たつのでは、老画家の昔の恋人(岡田嘉子)も登場しますが、二人は昔の気持ちを清算できるのでしょうか。

マロンネコさんは映画マニアで名作も観られているだろうと思い、「男はつらいよ」シリーズで最高傑作と言われている今作を選びました。ヒューマンドラマも楽しめますし、前半の画家メインの場面と後半のぼたんメインの場面が繋がっていく美しい脚本です。また、マロンネコさんは、趣味で油絵を書かれており、老画家の絵に対する思いのシーンもぜひ観てほしいと思いました。

マロンネコさんから感想をいただきました

第1作を観て、順番に観たくなってしまいました。なので、次は、コンシェルジュの残りの2本ではなく、第2作目を観ます。(詳しい感想は、後日いただきます)

『男はつらいよ』

まずはやっぱり寅さんの口上から始まるオープニングに引き込まれました。人のゴルフボールを拾い上げて渡し、笑顔で頷いたり、お祭りに急遽参加して周りを盛り上げるなど、寅さんのさっぱりした人柄を感じました。そして久しぶりに故郷に帰った寅さんが人々に会って挨拶をしたり妹を育ててくれた親戚に感謝したりなど、寅さんの真面目なところや妹想いなところを感じ、自分は最初は寅さんがムードメーカーとして物語を盛り上げていくのかと思っていました。

自分が寅さんに不穏さを感じたのは妹のお見合いに寅さんが同席した場面でした。寅さんはお酒を飲んでいく内にどんどん上機嫌になり、下ネタを言ったり家族のことを無神経に話したりなど、自分は寅さんの本来の姿を知ってしまいました。ただ寅さんは全く悪気が無いことがさらに厄介だと感じました。妹は元々お見合いに乗り気ではなかったとは言え、やっぱり人間にはプライドがあるので、妹は落ち込んでしまう。お見合いのことについて親戚に叱られる場面でも、寅さんは口が悪くなったり好戦的な態度を取ったりなど、この作品おいて寅さんは周りをめちゃくちゃにしてしまう疫病神的な存在なのではと考えました。

物語後半では寅さんの妹に恋する工場の若者と、幼なじみに恋する寅さんが描かれています。寅さんは奈良で久しぶりに幼なじみに会い、鹿の風船をプレゼントします。寅さんの妹に恋する若者に、寅さんは相手の心を射止める視線をレクチャーするが、それがなんともおかしく、若者ももちろんピンと来ない。湖のボートの上で寅さんは幼なじみに例の視線を送るが、そのおかしな視線を寅さんは真面目にしているのが本当に面白く感じました。そして寅さんの妹と若者は無事に結ばれますが、それは寅さんのおかげ...というわけでもなく、寅さんのいいかげんさによって若者は脈なしと勘違いしてしまい、それを知った寅さんの妹は若者を追いかける。駅での2人の言葉ではなく視線で心を通わすシーンが本当に素晴らしかったです。

2人の結婚式では、若者は縁が切れたと思っていた両親がやってくる。寅さんは父親と大喧嘩した自分と若者を重ねたのか、その若者の両親に後で何か言ってやろうと息巻く。しかし志村喬演じる父親の息子を想うスピーチによって寅さんは逆に感動の涙を流す。これは本当に感動的なシーンでした。そして物語終盤、寅さんは幼なじみに猛アタックするが、実は幼なじみにはもう相手がいることを寅さんは知ってしまう。寅さんは失恋を経験し、涙を流す。そして寅さんはまた放浪の旅に出てしまう。しかしそれは寅さんは失意によって旅に出るのではなく、また新たに生まれ変わろうとして旅に出るのではないかと思いました。そこに自分は、ガサツな寅さんが失恋によって人間的な成長を見せたように思いました。そしてこの作品でもう1つ良かったシーンは、幼なじみの家でしぼんだ鹿の風船が机の上に大事そうに置かれている場面です。寅さんと幼なじみは結ばれることはなかったけど、その幼なじみはそれでも寅さんとの思い出を大切にしていて、自分はそこに心を通わせるという、山田洋次監督の根源的なテーマを感じました。


コンシェルジュを終えて

マロンネコさんは映画にとても詳しく、時代を問わず幅広く鑑賞されています。「男はつらいよ」に興味深々な方だったので、とても嬉しく、コンシェルジュ冥利に尽きました。そして、第1作目を観て、順番に観たいというご意見、最高に嬉しいです。あとはぜひ、ご自身の観たい順にご覧ください。映画マニアの目に寅さんがどう映るのか、とても気になります。マロンネコさん、ありがとうございました。


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