活版印刷のすべて(わたし調べ) 第3話
活版印刷のプロセス
活版印刷の概要は第2話でわかってもらえたと思うのですが、では実際にはどんなことをするのか、第3話では活版印刷の手順を詳しく綴っていこうと思います。
活版印刷のプロセスは、印刷工程だけでも①文選 ②植字 ③組みつけ ④校正 ⑤印刷の5つがあり、それぞれが分業されていて、そのどれもが職人だからこそできる熟練技でした。
①文選
「ウマ」と呼ばれる活字が大量に保管されている棚から、印刷する原稿に使用するものを拾っていく工程です。(想像するだけでかなり大変な作業に思われますが、わたしが最初にひらがなを7文字拾ったときは、欲しい文字がどこにあるか全くわからず、10分くらいかかってしまいました。)
当時は文字を拾うためだけの職人がいて、文選工と呼ばれていました。彼らは1時間あたり800〜1200字くらいの活字を拾うことができたそうです。
②植字
植字は、文選工程で拾った活字を指示にしたがって組み、原稿にしていく工程です。ただ活字を組み合わせるのではなく、クワタやインテルと呼ばれる込めものも組み合わせて、文字間や行間を調整し、読みやすいレイアウトに工夫していきます。(文字や行の詰めにこだわるのは現代デザインでも基本ですが、読みやすさ、読みづらさなどのルールは活版印刷の時と何ら変わっていません。)
この作業でできたものを組版といいます。組版は強い綿糸で固定され、ゲラと呼ばれるケースに入れられます。(原稿をゲラと呼ぶのは、ここから来ているんです。)
今は綿糸ではなく、ゴムを代用することが多いようです。当時は指示のない部分にも、職人さんが読みやすくアレンジを加えていたらしく、職人さんの経験値とセンスがとても重要だったようです。
③組みつけ
組版をチェースと呼ばれる鉄製の枠に固定する工程です。組版とチェースの間を埋めるための、フォルマルトと呼ばれる道具を用います。(フォルマート、ファニチャー、ファニチュア、マルトなどと人によって呼び方が違い、初心者を混乱させます。)最後に、ジャッキをジャッキハンドルで締めて、組版を固定させます。
④校正
今も印刷物にはこの工程が残っていますが、当時は原稿を著者に確認してもらうと同時に、初校は特に活字の有無の確認と、文選・植字上の間違えを確認するための比重が大きかったといいます。植字時に活字がない文字は、活字を裏返して(〓の形になります。ゲタと呼びます。)校正刷りをしていたそうです。人の手で一つずつ組み上げるものだからこそ、こういった確認が必要だったんですね。
⑤印刷
いよいよ印刷です。印刷機は長い歴史の中で様々なものが存在していますが、活版印刷には大きく分けて平圧式と円圧式、輪転式の3種類の印刷方式があります。
1)平圧式(platen press)
版全体を一度に押し当てる方式です。活版印刷機の発明者、グーテンベルグの開発した初期の印刷機はこの手法で、手キン・手フートと呼ばれている、わたしが使用している手動印刷機もこの平圧式です。均等に圧力をかけることが難しく、比較的小さな印刷物(名刺、ポストカードなど)の制作に使用されることが多いです。
2)円圧式(cylinder press)
平らな版に円筒の圧胴(ローラー)を押し付けて印刷する方式です。平圧式に比べ、印刷に必要な圧力が少ないため、紙や印刷機への負担が少ないです。また、比較的大きな印刷物を刷ることができるため、ポスターなど制作に使用されることが多いです。
3)輪転式(rotary press)
湾曲させた版を回転する円筒に取り付けた印刷機です。円筒形のドラムを高速で回転させながら、版につけたインクを紙に転写することで、短時間に大量の印刷ができます。そのため、新聞や雑誌などの印刷に使われており、この手法が現在主流のオフセット印刷にも流用されている印刷方式です。
以上が5つの工程ですが、これらの工程に入る前に、まず大前提として「国語力」がないと、①の文選もままならないことを痛感しました。活字棚には部首順に活字が並んでいるので、部首がわからないと活字を拾えなかったり、そもそも見たことのない漢字は見つけられなかったりするためです。でも、組版までができるようになれば、デザイナーとしての目もだいぶ養われるはずだと思いました。
次回は、わたしが持っているかわいい印刷機、手キンについてです。
つづく