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椿姫に関するノート
デュマ・フィス『椿姫』
新庄嘉章約 新潮文庫 平成26年94刷
ノイマイヤーの「椿姫」との比較。
小説を読んでみて、自分の中でオペラのイメージが強いことがわかった。
オペラは大昔テレビで全幕を見ただけで、あとは細切れに見たり聞いたりしている程度なのだが。
小説は語り手が2人いる。1人は作者。もう1人はアルマン。作者がアルマンから物語を聞く体裁になっている。ほとんどの「わたし」はアルマン。
●マルグリット
マルグリットは妖艶であってほしいのは、オペラのイメージ。
小説のマルグリットはそれほど妖艶ではない。
「背が高すぎるほど高く、からだつきもほっそりしすぎていたが」
「顔はといえば、これがまたすばらしく、一種独特ななんともいえぬあだっぽさがあった」(19頁)「その顔の上に、いかにも処女のような、むしろあどけないとでもいいたい表情が残っていた」(20頁)
この描写はアルマンではなく、作者。
●椿姫の由来
「マルグリットは芝居の初日には欠かさず見にいった。…新作が上演されるたびに…1階の桟敷の前には、3つの品がそろえられてあった。観劇眼鏡と、ボンボンの袋と、椿の花束が。この椿の花は、月の25日は白で、あとの5日は紅だった」(21頁)
ということで、名の由来は花束。
●アルマンとマルグリットの年齢
マルグリットは20歳(25頁)
アルマンは24歳(310頁)。弁護士(249頁)。母の遺産がある。父は税務署長。
いやー。マルグリットが年上かと思っていた。
●プリュダンス
バレエではマルグリットの友人で、ソリスト役。2018年ハンブルク・バレエ団の「椿姫」で菅井円加が若さ爆発ばんばん踊っていて、マルグリットの友人に見えなかったなあ(マルグリットはコジョカル)。
小説では玄人上がりの40代でふとっちょで帽子屋でマルグリットの隣に住む(106頁)。途中まで2人の恋の面倒を何かと見る(もちろんそれなりの報酬目当て)が、マルグリットの最期を看取るのは別の女性。
夫人と書かれるが、夫の存在が皆無。毎晩マルグリットに呼び出されているのだから当然1人なのかとも思えるのだが、「うちでシャルルが待っている」(178頁)とあるので、同居しているのか。玄人上がりでマルグリットのお友達、夜遊び諸々すべて納得づくの夫婦ということか?
●小説「マノン・レスコー」
バレエではしつこく踊る。マルグリットの心を表す。小説では;
作者が「マノン・レスコー」の本をマルグリット死後の競売で落札する(30-31頁)。
その本を作者がアルマンへ譲る(43頁)。←これがきっかけで2人が知り合い、作者にアルマンが話をすることになる。
アルマンがマルグリットに「マノン・レスコー」を贈る(247頁)
マルグリットが田舎で「マノン・レスコー」をよく読む(275頁)
アルマンの父が息子を説教するときにマノンをたとえに出す(310頁)
マルグリットが田舎の別荘を去った後、アルマンが読みかけの本を見つける(335頁)
ということで、ちょこちょこ登場はするが、マルグリットだけが関わるわけではない。
小説「マノン・レスコー」の成立は1731年。小説「椿姫」の舞台は1840年代。100年前の小説か。良く知れ渡った物語という感じか。
●墓を暴く
アルマンが作者に語り始める前、マルグリットの墓を暴く(移動させる)シーンがある(実際に墓を暴くのは墓掘り人夫、警官が立ち会い。)。土葬文化だな。もちろんきれいなシーンではない。かなりおどろおどろしい。それでも死期に間に合わなかったアルマンが唯一マルグリットの顔を見る方法なのだ。もちろんバレエにはない。
●愛想尽かしの理由
アルマンの父がマルグリットに息子と別れてくれと頼み、それでマルグリットは田舎からさっさとパリに戻ってしまう。
アルマン父、最初はマルグリットのことをバカにするが、最後には2人が本当に愛し合っていると理解する。そのうえで、自分の娘(アルマンの妹)の縁談に差し障るから別れてくれと頼むのだ。アルマンがパリで淫蕩生活を続けるなら、縁談を断ると先方が言ってきたのだ(つまりアルマンとマルグリットの噂は広まっているのだ)(393頁)。
アルマンのために別れてくれと言われるよりも、いっそう重い。
ただしこの事実が明らかになるのは、最後の方。マルグリットが死に、アルマンが彼女の残した手紙に書いてあった。このあたりはややこしいのでバレエではないはず。
この田舎、パリから馬車でも汽車でも日帰りで行ける距離。馬車と汽車の両立する時代なのだな。
●オランプ
バレエでは役割がよくわからなかったオランプ。
小説ではマルグリットに振られた後、アルマンがつきあう(と言っていいのかな)ことになる。それでマルグリットが傷つく。マルグリットよりも若い(364頁)。ただの娼婦として描かれる。
●ジュリー
マルグリットの最期を面倒見る女性なのだが、素性がわからない。なぜ親切なのか?親切じゃないと設定上困るのだが、謎の人物。バレエには出てこない(と思う)。ジュリーの役はナニーヌ(マルグリットの侍女)がやっていると思う。謎が解けたら追記します。
●娼婦と若造
金で買われる愛しか知らない娼婦を、真面目な若造がひたむきに愛し、娼婦が純愛に目覚める(けれど、結局別れる)というのはよくある物語で、男性の願望なのだろうなあ。女性はいつも愚か。救うのは男性。こう書いてしまうとつまらん話だね。あーあ。
*単にバレエと小説を比較しているだけであって、「登場人物等を小説のようにしろ」ということではありません。