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紡いだことばたち。
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#詩作

詩 11

シンクには
数日前の紅茶のカップ
干からびて 底にへばりついた檸檬
数日前の それは 私

夜の端をつかまえて
縫い閉じようとする
決してもう、開かないように
クローバーの針と、透明な糸

部屋全体が脈打って
濃いにおいを撒き散らす

眩暈

窓の外には、星
夜の底にへばりついて
そのまま干からびた私は
薄く目をあけて

とうの昔に死んだ
星のひかりを

みている

詩 10

ねぎを刻む
ためいきをつく
歌をうたう
ちょっと笑う
言葉をつづる
ドアを開ける

そわそわする
どきどきする
ずきずきする
わくわくする

それは少女
それはおとなの女
それは青年
それはひかり
それはねこ
それは蝶
それは宇宙

それは、私

私の中の いくつもの私が

息をしている

私の中の いくつもの私をたばねて

息をしている

私のからだで

私のここ

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詩 9

たとえばGコードが私にとっていちばん心地よいとかそういう、感覚だけで生きている
長すぎる指に時々嫌悪感を抱くのだけれど、それが或る時には誇りであったりもする

世界は、いともたやすく形を変える

たとえばあの日見た海の青が心に染み込んでもう、どうにも泣きたくなった夜に、
唐突に死んだおじいちゃんを思い出したりする
骨ばった手 薄い唇 刻まれた皺

あの頃は分からなかった、永遠の不在

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詩 8

はじまりは 音
曖昧で奇妙な音の断片

-私はその町で、まだ、何物でもなかった-

地下鉄
校庭
路地裏
教会
アパートメント
に、あふれる

音、音、また、音

押し寄せる音の波
鼓膜からどんどんと内側に流れ込んで
私の中に浸みこんでいく

少しずつやわらかくなった両耳の奥
音は言葉と手を繋ぎ
記憶の襞に印を刻む

空気が濃度を増し
きのうまで未知だった音たちが
輪郭を持ち
産声

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