ルドルフ・ブッフビンダー ピアノリサイタル【いざ、東京春音楽祭へ!】
現在、東京 上野は絶賛音楽祭中であります。
初参加の私はこの日を心待ちにしていました。
な、なんと…
1週間毎日、ブッフビンダーがベートーヴェンのソナタを全曲演奏するのですよ!
こんな贅沢がありますか…
しかも、会場は東京文化会館。
東京文化会館は、私の尊敬している写真家 木之下晃さんともゆかりのある伝統的な場所。
そんな場所でブッフビンダーの音が聴けるなんて、文章を書いているだけで泣けてきます。
私が初めてブッフビンダーの音を聴いたのは、マックス・リヒター作曲のアントン・ディアベッリのワルツによる新しい変奏曲。
聴いた瞬間、真っ暗な宇宙空間に放っぽり出されたような感覚になり、それが衝撃的で彼の音に興味を持ったのですが、他の曲を聴いてさらにビックリ。ディアベッリとは打って変わって、とっても上品で繊細で可憐な演奏をする曲があるのです。まるで、白い花々が咲き誇る大草原の原っぱに立っているような気分で、またしても別世界に引きこまれました。
本当は1週間毎日行きたいのだけれど…
スケジュール的に後半は行くことができず。かと言って前半全ての参加は金銭的に難しい。だけど、どの日にちのプログラムも魅力的で参加日が決められなーい!
と言うことで、キリ良く一日目の演奏会に行くことにしました。(←単純)
東京文化会館自体は何度も訪れたことがあるのですが、ホールで演奏を聴くのは初めて。
夜に建物を見たのも初めてだったのですが、初日にしてはライトアップ具合が足りないと思ったり。
今回、チケットが売り出された瞬間にど真ん中の席を確保。やはり初めて聴く演奏者の演奏は、真ん中の席がフラットな気持ちで聴ける気がしています。ピアノはスタインウェイ。
ご本人が椅子に着席後、わりとすぐに曲が始まったのですが、1音目からもう別世界で。上手く言葉に現せないのですが、幽体離脱して聴いているような気分でした。先述した「宇宙空間に放っぽり出されたような感覚」の正体はこれだと確信。
何だか、ご本人の音に対する確固たる信念のようなものが一音一音それぞれに意思を持たせているようで。音自身も自分が生み出された意味を理解していて一つの個体として成り立っている、そんな音。
指先から鍵盤へ放たれた音は彼の手元の位置で静かに佇む。音の動きが少ないので互いに共鳴し合うようなピアノの響き。
そんな音の響きはステージから漏れることなく、ブッフビンダーの周りでのみ共鳴していました。
きっと私が別世界に引きこまれたのではなく、ステージ自体が彼と彼の音達で作られた特別な空間になるんだろうなと。
そんな音だからか、はたまたホールの関係か。
音数多めの和音やフォルテ、アップテンポな曲は音同士がぶつかり合って上手く共鳴できていない印象。逆に、お互いを確かめ合うよう静かに鳴る曲の美しさはもう圧巻でした。
特に後半演奏された、第4番 変ホ長調 Op.7-IIと月光。曲が始まった瞬間、客席の誰もがはっと息を呑み姿勢を正す姿で会場が波打ったほど。その光景に風で揺られた大草原の花々を思い出す。上品で繊細、時に可憐な後半の演奏はステージを超えてゆっくり客席に響いてきました。
たった一音で空気を変えるブッフビンダーは、まるで魔法使いのよう。そう言えば、以前聴いたツィメルマンも魔法使い系の音色。(彼は錬金術と言う表現の方が合ってるかもですが)
お2人の音って少し似ている気がしています。
そんなブッフビンダーの演奏は3/22が最終日ですが、音楽祭は来月までやっています。
その場で雰囲気を感じるだけでもワクワクするので、まだ行ってない方は是非ご参加を!