ヴァレリー・アファナシエフ ピアノリサイタル【マエストロからホンモノの芸術を学ぶ】
11月30日、奇跡的に入手できたアファナシエフの公演に行ってきました。
この公演、私が参加できたのは11月30日の東京公演のみ。他の公演は予定が合いませんでした。
普段なら即決でチケットを取るのですが、ここで問題が発生。
なんと、当日はカツァリスの公演もあると言うではありませんか!!
日にち、時間、全て丸被り。
生まれて初めて「自分が2人いたらなぁ」なんて考えましたよ…
もう、究極の選択。
グズグズ悩んでいるうちにチケットが完売してしまい、結局どちらのチケットも買うことができなかったのです。
私のバカー!
そんな時、なんと、このnoteを通じてチケットを購入することができました。
2023年の運、最後に使い果たした気分…
改めて、ノヴェレッテ 板垣さん、そしてこのnoteの存在に深く感謝申し上げます。
本当に本当にありがとうございます。
私のアファナシエフの音との出会いは、ベートーヴェンのディアベッリの主題による33の変奏曲を聴いてから。初めて出会った音のタイプで、一気に虜になりました。
アファナシエフの音も、丸くて下に沈むタイプ。
丸い音や沈む音を出すピアニストは他にもいらっしゃるのですが、アファナシエフの音は真っ直ぐ縦に深く深く沈みます。そして、温かくて心地良い。ベテランピアニストだとすぐに分かる、重厚感のある音色。
だけど、11月22日に発表された、ベートーヴェンのハンマークラヴィーアを聴いてビックリ。
重厚感がありながらも軽い!
そして、音が動かない!
と言うのも、彼のハンマークラヴィーア、音色がとってもクリア。クリアな音って、打鍵後結構上に飛ぶのですが、そんなクリアな音色と、アファナシエフ特有の沈む音それぞれが、浮かんだ音を上下に引っ張り合うから、音がその場にとどまって動かない。それが音の存在感に繋がっているのです。録音を通してでもはっきり分かる程の強い存在感。
今回のハンマークラヴィーア、使用ピアノはヤマハとのこと。
確かに、ヤマハの音ってクリア系。
アファナシエフがヤマハを弾くと、あんな音が出るんだって言う感動と。
何でヤマハを選んだの?って言う率直な疑問と。
ヤマハの音に合わせて弾き方を変えたの?
ハンマークラヴィーアのためにヤマハを選んだの?
今回のために音作りをしたの?
録音や機材の関係?
他のピアニストに影響を受けたの?
と、もうご本人に聞きたいことだらけ!
こんなにベテランでも進化し続けていて、新鮮な気持ちを届けてくれるアファナシエフは、最高のピアニストです。
だから、今回の公演はとっても楽しみにしていました。もう、毎日ずっとワクワクしっぱなし!
そして迎えた当日。
初めての王子ホール、かつ銀座と言う場所に緊張してしまい、そわそわしながら田舎者丸出し状態で会場へ向かう。
だけど、ホールの広さや空気感、客席数など、私好みの会場だったことで嬉しくなり、ウキウキ気分で一瞬にして緊張がほぐれました。
いただいたお席は、ちょうど真ん中あたりの場所。この場所ってどの会場でも、だいたいすぐSOLD OUTになるので、こんなど真ん中で演奏を聴くのは初めてだったのですが…今回この場所で演奏を聴き、何故真ん中で聴きたい人が多いのか理由が分かりました。
もうね、音の混ざり方が素晴らしい。
そして、バランス良く綺麗に音が飛んでくるので、とっても聴きやすいし集中できる。
いや、王子ホールが凄いのか!?
ご本人の実音は言わずもがな、とってもとっても美しいです。丸くて温かくて、会場全体を包みこむような暖色系の音色。ですが、意外と録音ほど音は下に沈みませんでした。
選曲の関係かな?
音の上下に立体感がありつつも、私の目線と同じ高さくらいで響いていることが多かったです。
その音の存在感が凄くて、
「おぉ!存在感のある音はハンマークラヴィーアだけじゃないんだ!」
と、新たな発見。
やっぱり生の演奏を聴かないと分からないことってたくさんあります。演奏中、アファナシエフの音の存在感を堪能すると同時に、ふとリパッティを思い出していました。
リパッティは左右に奥行きのある音色。
アファナシエフとは真逆なのです。
また、ハンマークラヴィーアの録音を聴いた時にも思ったのですが…時々藤田真央さんそっくりな音が鳴るんです。柔らかくて丸っこくて真っ直ぐ上に飛んでいく、あの音色。アファナシエフの方がベテランなので、藤田さんにアファナシエフの音が聴こえると言った方が正しいのかしら?
藤田さんほど音は高く飛ばないのですが、一度、あまりに似ている瞬間があり、ご本人を二度見してしまいました。
話しが逸れてしまいすいません。
これは私の悪いクセで、演奏中にオバサンの井戸端会議みたいな、余計なことを考えてしまう時があるのです。ほんっとうにくだらない、どうでも良いような、音の噂話しを1人で脳内再生してます。
話しを戻しましょう。
アファナシエフの音。
曲によっては、やっぱり深く沈みます。
特に、ドビュッシー 月の光とアンコールのショパン マズルカ。
まるで、溶けたチョコレートを大きな砂時計型の器に流し込んだみたい。柔らかく深く、ゆっくり沈んでいくのですが、あまりの美しさに時が止まったよう。気付いたら曲が終わっていました。マエストロの音は時も止められるんですね。夢うつつ、半覚醒のような状態で演奏が終了しました。
終演後はサイン会があるとのこと。
毎回どの公演にも、必ずピアニストさんへメッセージカードを持参するのですが、ご本人にお会いすることは出来ないので、いつもスタッフさんにお渡ししてもらっています。
ですが、今回は板垣さんから、サイン会で直接お渡しすることをご提案いただき、恥ずかしかったけど勇気を出して並んでみることに。
1階ロビーがサイン会、会場。
向かうとすでに長蛇の列で、私はほぼ最後尾でした。
前列の人たちが次々と捌けていき、マエストロとの距離が縮まるたびに高鳴る胸の鼓動。
途中、恥ずかしすぎて「やっぱり帰りたい!」って思ったのですが、サインを貰った人達がまだマエストロの周りに集まっていて、注目の的。もはや帰るのにも勇気がいる状況で並び続けるしかなく…ドキドキしながら順番を待つ。
いざ、自分の番。
CDにサインを貰ったあと、手作りのメッセージカードを渡す。
お渡し後、すぐにその場を立ち去るつもりが、マエストロったら「Oh〜」と一言。なんと、いきなりその場でメッセージを読み始めたのです。
会場にいる全員の視線を感じ、もう顔から火が出る寸前!
「きゃーやめてーーー」と心の中で叫んでいましたが、メッセージを読み終えたマエストロ。
私の方をグッと覗き込み、
「Thank you!Thank you!アリガトウ」
と、照れ笑いされる。
メッセージには、マエストロの音やハンマークラヴィーアの音について、私の感じたことや想いを書いたので、ご自身でお読みになって照れ臭くなったのかな?はにかんだ笑顔がチャーミングで素敵でした。
メッセージを読んで、言葉をかけていただいたことも凄く嬉しかったのですが、何より、私を覗き込んだ時の目が一生忘れられません。
実際はもっと笑っていましたが、この目でじっと私を見られるのですよ。
もう全身硬直。自分の全てを見透かされているような気持ちになり、ハッとして動けなかった。
「偽物や偽りは通用しない」
「この人に誤魔化しはきかない」
直感でそう感じさせるマエストロの目。
実はこの公演の数日前に絵画クラスの授業があり、師事している先生から、私の作品について盛大なダメ出しを受けたところ。
「色の絡みがあまい」「美大卒業レベル」「プロとしてはやっていけない」と。
結構自信があったので「良い出来なんだけど…何でダメなんだろう?」と、それはそれは落ち込みました。
しかし、マエストロの演奏を聴き、実際にお会いし、あの目で見つめられた時、私がいかに低いレベルで満足しているかを痛感したのです。
一流の人って、何も語らなくても、その場にいるだけで一流だと分かるのですね。
「ホンモノの芸術」を知り尽くしたマエストロを前に、自分の未熟さを思い知りました。
手作りのメッセージカード。
当然心はこめていますし、表の絵も良い出来だった。だけど多分、マエストロはこの絵が習作で、メッセージカード用に準備したサブ作品であること、分かっていると思います。
それが良い悪いではなく、あの目はきっと、ホンモノとそうでないモノを見抜けるから。
お渡し後、メッセージカードに描いた絵を思い出し、マエストロから取り返したいくらい恥ずかしい気持ちになりました。
良く描けたと思っていた絵でしたが、いきなり陳腐な作品に見えて来たのです。
あぁ、良い絵が描けるまでもうマエストロには会えない。だけど、良い絵を描いて必ずご本人に献呈したい。
そう思いました。
緊張したけど、やっぱりサイン会に並んで良かった。貴重な経験が出来ました。
何だか、あまり体調が良くなさそうだったマエストロ…日本に来るのは今年が最後かもとおっしゃっていたようですね。
Please come to Japan again.
メッセージカードに書いた、最後の一文。
いつかまた、会えるはず。
その時まで私も筆を握り続けたい。
献呈について語った記事です。
読んでいただけると嬉しいです!
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