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回顧2022 Footballがライフワーク Vol.24

摩訶不思議、そんなふうに形容したくなるチームだった。合間のコスタリカ戦では非力を露呈しながら、優勝経験国を二度に渡って撃破。信じがたい出来事を目撃すると、反応も鈍るのだろうか。初陣のドイツ戦、板倉滉のフリーキック一本で裏を取った浅野拓磨がマヌエル・ノイアーのニアサイド上段を撃ち抜いた決勝点の瞬間は、しばし啞然としてしまった。ボール支配率が20%に届かなかったスペイン戦は、さながら劇薬の役目を担った堂安律を投入した3分あまりで唯一無二の流れを呼び寄せ、再び逆転勝利。よもやのグループステージ首位通過は、同僚からのLINEを受け取るまで「夢か現か幻か」の心境だった。ドイツ戦で形勢を変えた先手必勝の攻撃的采配、スペイン戦でも機能した三笘薫のウィングバックでの途中投入など、戦力の差は戦略で埋め、一度ならずジャイアントキリングを実現してみせた。目標に掲げたベスト8には惜しくも届かず、決勝トーナメントでの初勝利は持ち越されたが、日本代表にとって歴代のワールドカップで最大の成果と言っていいだろう。

中3日の過密日程、欧州のシーズンを中断した年末開催、短い調整期間。これら、初ものづくしの影響なのだろうか。これで大勢は決した、もうこのチームで決まった―勝敗の行方や今後の展開について、見通しを立てては覆されることが続出した。日本に負けじとばかり劇的にグループステージを突破した韓国を粉砕、準々決勝の延長、クロアチアの鉄壁をネイマールが連携で華麗に打ち破り、いよいよ20年ぶりの優勝が見えたかに思えたブラジルは、追いつかれ、日本と同じくドミニク・リバコビッチが立ちはだかるPK戦に泣いた。同じく準々決勝、アルゼンチンに先制点も追加点も奪われたオランダはそのまま完敗に終わるかと思いきや、ヴォウト・ヴェフホルストの投入で反転攻勢を仕掛け、フリーキックで壁の下にスルーパスを通す見事なサインプレーまで決めてPK戦に持ち込んだ。大会を覆った波乱は、最後まで続くのか。微かな予感を抱いたものの、初戦の金星献上から立ち直ったアルゼンチンと、複数の主力が欠場する影響をまるで感じさせないフランスによって、伝統国の面目は保たれた。残すところ2日間。殊勲のクロアチアとモロッコは、スコアレスドローに終わったグループステージに続いて接戦となるか。1998年以降、欧州の優勝国が直後の大会でグループステージ敗退を続けた"呪い"も難なく解き、60年ぶりの連覇達成に王手。優位なのはフランスに違いないが、願っているのはアルゼンチンの4年前のリベンジ、ディエゴ・マラドーナに捧ぐ36年ぶりの栄冠だ。悲願が叶えば、リオネル・メッシはどんな表情で優勝杯を掲げるだろうか。

ワールドカップの熱にかき消されてしまった感もあるが、欧州クラブシーンではレアル・マドリーの14度目のチャンピオンズリーグ制覇への道のりが奇跡的だった。パリSG、チェルシー、そしてマンチェスター・シティ戦。ノックアウトステージに突入して以降、いずれも一時はリードを許しながら、遅まきの全盛を迎えたカリム・ベンゼマとヴィニシウス・ジュニオールやロドリゴの成長が噛み合い、逆転に次ぐ逆転で勝ち上がった。相撲でいえば、決まり手はすべて"うっちゃり"だろう。決勝のリバプール戦ではヴィニシウスの虎の子の1点をフェデ・バルベルデがお膳立てし、ティボー・クルトワが万全のセービングで完封。脇を固めるタレントのパフォーマンスも、世界最高水準だった。テレビ放送がストリーミング配信に押される時代にあっても、テレビ好きとしては名勝負にチャプターマークを付けてディスクに録画する作業がやめられず、今年はワールドカップの日本対ドイツ戦と、チャンピオンズリーグのマドリー対PSGのファーストレグをアーカイブに追加した。ミリトンとマルコ・ヴェッラッティの息を呑むマッチアップが象徴したように、精密にして強烈な攻めと守りがせめぎ合い、それらがめまぐるしく入れ替わりながら連続していく様相には、「これぞフットボール」と感心せずにはいられなかった。

今夏はPSGが来日し、メッシにネイマールにキリアン・エムバペと、当代最高と言えるスター軍団がJクラブとの親善試合で話題を振りまいた。気の毒なことに、同時期に国内組だけでE1選手権に臨んだ日本代表は集客面で苦戦し、人気の格差が浮き彫りになってしまった。そんな状況を「サッカーの入り口は、PSG、日本代表、Jリーグのどれでも構わないし、ほかにもたくさんの入り口がある」と評したのは、金田喜稔さん。いまだ日本代表の最年少得点記録を保持するかつての天才ドリブラーから発せられた言葉は、私的「名言オブ・ザ・イヤー」となった。先人たちのこの寛大さも、フットボールが世界中で愛される所以だと思う。長年ぶりに日本代表戦を地元で観戦した今年、目の前で得点した三笘や前田大然がカタールでも躍動し、"新しい景色"を見せてくれたことで、大きな入り口が開いた。願わくば、その入り口は、J1残留が精一杯だったわがヴィッセル神戸も含め、私たちの日常にも通じていることを多くの人びとに知ってもらいたい。

最後に、自選の年間ベストイレブンを記す。

GK:ティボー・クルトワ
DF:ミリトン
   チアゴ・シウバ
     ヨシュコ・グバルディオル 
MF:ルカ・モドリッチ
      ソフィアン・アムラバト
   三笘薫
      鎌田大地
FW:カリム・ベンゼマ
      キリアン・エムバペ
      アーリング・ハーランド

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