
在宅ワーカーが離れて暮らす母と食べる昼ごはん
もう長いこと「わたしの母親の娘」をやらせてもらっているが、そういえば母親が平日の昼間なにをしているのか、わたしは知らない。
実家に暮らしていたときは、わたしも学生・会社員で平日の昼間は基本的に家にいなかったからだ。
11月前半、わたしはほとんど何の用もなく、誰かとの約束もなく、多くの日を文字通り1日じゅう実家で過ごした。
そこではじめて知ったのだ。
平日昼間、母親がなにをしているか。
母の朝は早い。午前4時起きだ。
早朝からパートに出かけ、7時ぐらいに戻ってくる。
それから家族を送り出し、洗濯や掃除や朝食の洗いもの、愛犬の散歩をすます。
そうこうしているあいだにお昼時だ。
昼ごはんを食べて、ちょっとひと息。
つかの間の休憩を終えると洗濯物を取り込み、学校の近くまで孫を迎えに行き、孫におやつを食べさせて習いごとまで送ったあとすぐお風呂に入って夕飯の支度に取りかかる。
ほどなくして父親が帰ってくる。
自分の時間どころか、ゆっくりと座っている時間すらほとんどない。
想像以上の慌ただしさを目の当たりにして、今まで母の大変さを知ろうともしてこなかったことを申し訳なく思った。
仕事はいつかリタイアするけれど、主婦業にはリタイアがない。
365日、休みもない。
とんでもない仕事だ。とても頭が上がらない。
そんな母が唯一すこしゆっくり過ごせるお昼の時間。
『DAIGOも台所』を見るのが毎日の楽しみのようだった。
ミュージシャンでタレントのDAIGOさんが出演する料理番組だ。
手順を先生に教わりながら、先生と一緒に料理をつくっていく。金曜日はすべての工程をDAIGOさんがひとりでこなすチャレンジ回だ。
2022年4月の番組スタート当時、ほとんど料理経験のないDAIGOさんは野菜の皮むきや調味料の計量もひと苦労だったそう。
1年半が経って、さすがに調味料の計量ではつまずいていなかったけれども、食材を切るときは
「一口大ってどれぐらいですか?人それぞれ口の大きさって違うから、一口大っていわれても難しいですよね」
お肉をフライパンで炒めるときには
「あっつ!!油がすごいはねますね!!」
いちいち「あーわかる!」「それな!」の連続である。
わたしも料理が得意じゃないから、DAIGOさんが先生に投げかける質問や反応ひとつひとつに共感できた。
先生とのやりとりもDAIGOさん独特の間と切り口で、じわじわ笑えてくる。たまに「DAI語」が飛び出てきてニンマリしてしまう。
できあがった料理をいただいたあと、お皿洗いをしながらのエンディングトークも好印象である。
そうそう、洗いものまでが料理なのよ。
番組を見ているあいだ、母とはとくに言葉を交わすわけではなかった。
でも画面の向こうの和やかさに負けないぐらい、うちの茶の間もほっこりした空気で満ちていた。
15分がえらく短い。
帰省を終えて、もとの日常が再開している。
自宅で働いているとはいえ、朝食や昼食はなんだかんだ食べるタイミングを逃してしまいがちだ。
なんなら夜しか食べない日もざらだし、食べるといっても袋のラーメンとか、たまごごはんとか、バナナとヨーグルトとか「食べないよりまし」程度の味気ないものである。
ひとりで食べているからなおさらだ。
夜しか食べないのはさすがによくない。
せめてお昼だけでもきちんととろうと、1日のスケジュールに昼ごはんの時間をあらかじめ設定することにした。
13時30分。
少し遅めだが、この時間がいいと思った。
『DAIGOも台所』の放送時間だ。
今日はいつもの袋ラーメンを食べた。
いつもと違うのは、テレビがついていることだ。
なんだか母親と一緒に昼ごはんを食べているようで、体だけじゃなく心もエネルギーチャージできた気がする。
お母さん、今日のDAIGO見た?あのシーンがおもしろかったよね。
洗いものをしながら、心のなかでつぶやいた。
今日も読んでくれてありがとうございます。
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