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生きづらさのなかにある希望

またしてもすごい本に出会ってしまった。

宮西真冬さんの『毎日世界が生きづらい』だ。
先日書店に足を運んだ際のジャケ買い本である。

 あらすじに書かれている程度、ネタバレはしないつもりで記事を書くけれども、読みたくない方はここで引き返していただいて…。

∽∽∽

このお話の主人公は、結婚10年のある夫婦。
妻は小説家志望、夫はゲーム会社に勤める会社員。
そしてインコのピピと、2人+1羽の日常を描いた作品である。

大学時代から交際しはじめ、数年間の遠距離恋愛を経て、結婚した。
数年間の遠距離恋愛を経られる時点でもう、このふたりはなにがあってもきっと大丈夫だろうなと思いながら読み進める。

夫は自分の夢を追ってゲーム会社に入社したものの、仕事でつまずいてしまい、すこし立ち止まることを余儀なくされる。

妻は妻でそんな夫を支えようと仕事も家庭もがんばってみるのだが、これがなかなか難しい。

不穏な2人を細く、でもたしかに結びつけてくれるのが、インコのピピ。

互いに悩み、互いに気を遣い、互いに支え合おうとしながら生活は進んでいくが、なかなかどうして噛み合わない。
それはやっぱり、夫婦といえども「あたり前」が違うからだとわたしは感じた。
でも、きっとこの2人は大丈夫。
わたしにはそんな自信があった。

この本を読んだ多くの人が、2人の生きづらさの理由を2人の性質のせいだと捉えているようだ。
もちろん、それもひとつの理由だと思う。

でも、もっと大きな理由は、周囲の無理解だ。
いや、無理解というより、無神経といったほうが近いかもしれない。

――美景はうまいことやったよなー。
旦那に稼ぎがあるから、なんの心配もないだろ?
パートでお小遣い稼いでたらいいんだし。(略)

『毎日世界が生きづらい』 / 宮西真冬

これはたしか、妻が大学時代のサークル仲間からいわれたひと言だったと記憶している。

このご時世、なんの心配もないわけないだろう。
どうしてそんな無神経なことがいえるのだろうか。

そんなこと言うヤツ、無理してつき合う必要ないしょ。
友だちでもなんでもないし、友だちなんてやめちまえ。
…と、イライラしてしまうわたしは当然、友だちと呼べる存在がとても少ない。

でも、だからこの夫婦は生きづらいんじゃないのかい?
順風満帆なときなら「勝手に言っとれ」と思えることも、調子が悪いと必要以上に傷ついてしまったりモヤったりする。
難しい時期がすこし長く続くこの2人にとって必要だったのは、巣ごもりの時間だったのではないかとさえ感じる。

無神経なのはこの大学時代の友人だけではないし、こちらもこちらとて流す力を身につけることもまた大切だとは思うけど。

∽∽∽

そんなふうに、外野から活字を追いながら夫にも妻にも「あー、あるある」との共感と、えらそうに「うわー、それはないぞ、うざ!」という突き放しを繰り返した。

物語というつくられた世界の、つくられた2人だから、わたしだってなんとでもいえる。
共感しようができなかろうが、わたしが頭のなかでなにを考えようが2人に迷惑をかけるわけでもなければ、ほかの読者や作家さんに迷惑がかかるわけでもない。

でも夫婦のことに他人が口出しするのは、現実世界では禁忌だとわたしは思っている。

それこそわたしだって完璧ではないから、意図せず無神経な発言をしてしまっているおそれは否定できない。
けれど、よほど意見を求められた場面でなければ、人の夫婦関係についてとやかく申し上げる必要はないのだ。
それが個人的にはポジティブな意見だとしても、いわれた相手にとってはモヤモヤの原因になりうるのだから。

2人のことは2人のコミュニケーションでなんとかしていくことが基本であるし、「あたり前」もいちいち言葉にしなければ伝わらない。

それも、もしかしたらいちいちすれ違ってみなければ気づけないのかもしれない。

誰かを思いやること、思いが伝わらないすれ違い、それでもコミュニケーションを諦めないこと。

うん。この2人ならきっと大丈夫。

もし興味があればどうぞ。

今日も読んでくれてありがとうございます。
最近、あなたの心に残った本はなんですか?

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