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アンテナに引っかかったものを逃さずたしかめる勇気

映画館に行くとき、レイトショーでなければ公共交通機関を使う。免許は持っているものの、車の運転が苦手だからだ。できるだけ運転は避けたい。だからできれば公共交通機関が運行中である平日の昼間に観たい。

ここは車社会の地方都市だが、不便を許容できるなら車を使わなくても生活できる。車なら10分の映画館はバスだと30分ぐらい。だけどバスは1時間に1本だ。だから大体、行きも帰りも数十分待つことになる。
映画が2時間とするなら、家を出て映画を観て帰ってくるまでざっくり4時間はかかる半日仕事となる。

平日の昼間を趣味に充てるのは、今のわたしにとっては勇気が要る。「フリーランスなのだから、好きな日に映画を観に行ける!観に行こう!」と以前は思っていたのに、なかなか難しい。

旅行や推しのライブなら思い切って休みにできる(ようになってきた)が、映画はハードルが高い。
旅行はだいぶ前から「この日に行くぞ!ぜったい行くぞ!」と計画を立てて、それなりの交通費と宿泊費を払って実現する一大イベントだ。
ライブも旅行と似たようなものだ。日にちが決まっているし、だいたい東京や大阪、名古屋といった大都市開催で泊まりになるから。

映画はそこまでの覚悟もコストも入念な準備も必要としないけど、半日かかるとなるとスケジュールにきちんと組み込む必要がある。
「半日仕事を休んでまで観たい作品なんだろうか。配信になってからでもいいんじゃないか」と、観に行かない言い訳が頭のなかをじわじわ侵食し、結局諦めた作品もたくさんある。

言い訳に打ち負けて映画館に観に行かなかった作品のひとつにJOHN WICKがある。配信初日に観たけれど、映画館で観ればよかったと後悔した。

映画館に引き寄せられる前に、その映画がまず自分の目に留まったのは、なんらかピンときたはずだからだ。刺激を味わいたいのか、感動したいのか、何か現状を打開するヒントを得たいのか、単純に推しを推したいのか。

そうやって自分のアンテナに引っかかったものを無視しつづけると、感性や意欲が鈍っていく気がする。
10分も20分も経ったカップラーメンがのびておいしくないように、映画も観たいときがジャストタイミングだと思う。当たり外れはあるけれど。

そんなふうに「後で配信でもよくない?」と「今でしょ!」が、映画を観たいとなるといつもせめぎあう。

∽∽∽

わいてくる言い訳を押しのけて最近観に行った作品が、『サンセット・サンライズ』だ。
コロナ禍の三陸に、都内大手企業の会社員、西尾(菅田将暉さん)が移住する。三陸を選んだ理由は、釣りが好きだから。リモートワークで通勤の必要がなくなり、移住を決めた。

コロナ、震災、空き家問題と、重たいテーマが詰め合わさっているが、時にコミカルに、重たくしすぎず描けるのはさすが宮藤官九郎さん。

わたしは東北の出身ではないし、震災のときも東北にはいなかったけれども、震災のことはきちんと知っておかねばならないと思っている。
親指ひとつでなんでも調べられはするが、みること、きくこと、食べること、さわること、確かめることは、足を使って外に出ないとできない。

西尾も似たようなところがあったと思う。
三陸の海で何が釣れるか、はネットで調べられても、東北・三陸でしか食べられない料理や、田舎町ならではの人間関係、コロナに対する感覚の違い、キャッシュレス決済が全然使えないことは、調べてもわからない。
実際に足を運んでわかることが、どれだけ多いか。

今は、ネットニュースで読んで、SNSでみかけて、知っている気になっている事柄がとても増えた。でも氷山の一角をみてわかった気になるのは怖いことだし、愚かだと思う。震災についてだけじゃない。何もかも。

この映画を映画館で観る判断と行動まで含めて、この映画には自分にとって「体験」がどれだけの価値を持つのか、気づかせてもらった。

∽∽∽

どの映画館でももうそろそろ上映終了間近だとは思うが、ぜひ映画館で、エンドロールまで観てほしい作品。
自分の常識やあたり前がぜんぜん常識じゃないってことが、よくわかる。あのエンドロールのおかげで、余韻にどっぷり浸りたくなる。

それに、出てくるお料理がどれも最高においしそうで。
わたしも魚が食べたくなって、思わず帰りに魚を買って帰ったよ。

あーおなか減った。



今日も読んでくれてありがとうございます。
あなたが最近自分でたしかめたことは、何ですか?

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