夢は選べたほうがいい?『ばくうどの悪夢/澤村伊智』
夢ってなんだろうなと思う。
夢っていわゆる眠っているときに見るものでもあるけれど、じゃあよく子どものころに聞かれた「将来の夢」はどういうことなんだろうと思うけど、これは希望とかなりたい姿みたいに言い換えることができるのではないか。
これは田舎を舞台となっていて、もちろん登場人物もそこで暮らしている人たちだ。話のなかに大きな仕掛けがあるのだが、田舎の厭なところが徹底的に描かれている。
そしてその田舎の厭なところが物語の中盤にある仕掛けでぐるんとひっくり返る。
田舎は文化資本に乏しく、娯楽施設もなく、閉鎖的であり人間関係も凝り固まっている。そう思っている人に読んでほしい小説である。
都会と田舎を単純化して捉えている人にこそ効きそうなホラーだ。
先述したが「夢」という言葉は色んな解釈ができる。
そして寝ているときに見る「夢」は楽しいものや幸せなもの、怖い夢やどういう内容を見るなんて自分で指定することはできない。見たいものを見ることはできない。
でも現実でいう「夢」というか希望やなりたい姿はある程度自分で決めることもできる。逆にういと自分の都合のよいものだけを見て、信じることも。
ただ現実のいう「夢」ばかり追いかけて、盲信するあまりに自分が見えていなかったものが見えたとき、どうなるのか。
そういう意味でこの本を一冊読み終えたときに「悪夢」が何にかかっているのかがわかる。
澤村伊智先生の今作はいわゆる「比嘉姉妹シリーズ」の新作である。
一作目の「ぼぎわんが来る」は「来る」というタイトルで映画化もされた。
このシリーズは比嘉姉妹と野崎という男が怪異を追いかけ、発生する理由を解明して怪異をどうにかするという展開としてはありふれたミステリーホラーだけれど、出てくる人物の造形や構成が個人的には巧みだと思う。
ただ力任せにホラーをクラッシュするわけでもなく、謎を中途半端に残すわけでもなく、比嘉姉妹や野崎、登場人物たちと一緒にホラーの謎を追いかけるのがとても楽しいのだ。
この怪異がなぜ起こるのかにカタルシスを求める人にはおすすめのシリーズだ。
過去シリーズは文庫でも出ているのでぜひ。
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