12月に観た映画「燃ゆる女の肖像」「君の心に刻んだ名前」
12月は引きこもって過ごした年末年始もあって充実した映画ライフが送れた。また観たいなと思う2作品の感想を記録しておく。
※前知識なしで観たい方は読まない方がいいと思います。
「燃ゆる女の肖像」
クィア映画は児玉美月さんのTwitterを参考に選んでいる。以前感想を書いた「ユニへ/윤희에게」も児玉さんのツイートで知った。その時「燃ゆる女の肖像」も合わせて紹介されていたので、日本での封切りを待っていた。
舞台はフランスの孤島。貴族の家に生まれ望まぬ結婚を控えるエロイーズと、彼女の見合い用の肖像画を依頼された画家のマリアンヌが出会って恋に落ちる。しかし数日後に絵が完成すればマリアンヌは島を去り、エロイーズは結婚することになっていて...というのが大まかなあらすじだ。
解説で色んな人が取り上げているように、ほとんど女性しか出てこないのに家父長制の制約をひしひしと感じるストーリだった。メイドも含めた女性の3人の連帯や中絶について、見られる客体としての女性、などテーマが凝縮されているのに詰め込みすぎている感じがしない演出・構成が巧み。
エロイーズとマリアンヌの前に立ちはだかる壁は同性愛への偏見というよりは「女が女と共に(男なしで)生きることの困難」だと感じた。女性が父、夫、息子といった男性の保護者なしでは生きられないように作られた社会で二人にできることは少ない。
身分違いの女性二人の恋と連帯、ということで韓国映画「お嬢さん」を思い出した。スッキ(「お嬢さん」の主役の一人。侍女)はお嬢さん(もう一人の主役)に全てをかけた。けれどマリアンヌはそうしなかった。彼女には画家という職があり(父の名を借りる不自由はあるが)、それを手放せば大きな代償を払うことになるだろう。エロイーズもまた母や自分を経済的に支えるには結婚すべきだとわかっている。
絵が完成した後の二人の会話が、この「結婚したくない/させたくないけれど、どうしようもない」という二人の心情を表していたように思うんだけど、会話の流れを追いきれなかった気がするのでもう一度観たい。
物語のプロットだけでなく、映像や音楽も素晴らしかった。舞台である古城の明かりといえば日光とろうそくの光だけなので、それらを再現しつつ画面が暗くなりすぎないようなライティングになっていて驚いた。当時の人たちもあんな風にろうそくを使っていたのかな。
物語の初めから終わりまで「女性が女性に向ける眼差し」がカメラワークや演出から伝わってくるように感じた。どうしてそんな風に感じたのか自分でも不思議なんだけど、とにかくそう思った。
主人公二人のしゃんとした首の美しさと芯の強そうな目元や、互いの距離が縮まるにつれて緩んでくる表情に夢中になって観た。
「君の心に刻んだ名前」
Spotifyで各国の人気チャートを眺めていた時、台湾のランキングで「刻在我心底的名字」という曲がずっと一位になっていることに気づいた。調べてみると、映画「君の心に刻んだ名前/刻在你心底的名字」の主題歌だった。
主題歌が長いことランキング一位ということは映画も面白そうだし観たいなと思っていたらNetflixで配信された。
一言で言えば、1987年の台湾を舞台に、男子高校生のアハンとバーディーが社会からのプレッシャーと偏見の中でもがく話。
冒頭の寮生活のシーン、二人は軍隊にいるのかなと思うほどの規律と体罰。戒厳令がとけたばかりの台湾で、高校は生徒を厳しく管理して大学受験に専念させる場だったようだ。二人の通うキリスト教系の男子高校はその後共学化するが、男女交際はもちろん禁止。ゲイであると皆が知っている生徒は同級生たちにひどく虐げられていて、同性愛への嫌悪も激しいことがうかがえる。
学校も息苦しいが、家族からのプレッシャーも大きい。「いい大学に入って異性と恋愛して結婚して子どものいる家庭を築く」ことを親からは望まれている。しかし、成績の振るわないバーディや彼への恋心を自覚するアハンには過度な期待と映るだろう。
同性愛差別が今よりひどかったために互いを諦めるしかなかった二人が大人になって再会、という展開は「ユニへ」と重なる部分がある。今の台湾は「アジアで唯一同性婚ができるクィア先進国」というイメージだが、ほんの一世代前は同性を愛する自分の気持ちを認めることさえ葛藤することだったのだ。(二人が再会するのが高校の神父さんの故郷モントリオールという伏線からも時代の変化を感じる。)
こちらの作品も台湾映画らしい?絵の鮮やかさで観ていて心地いい。シャワー室やアハンの実家のシーンでの、二人の言葉にならない感情が強烈だった。
Netflixで観られる台湾映画には他に「先に愛した人」もある。こちらは亡き父の恋人である若い男と、彼が保険金受取人になっていることに怒り心頭の母の間で板挟みになる少年の話。とても良かった。台湾のクィア映画で、ゲイ男性以外が中心の物をもっと観たいな。台湾のLGBT映画配信プラットフォームGagaOOlalaを試そうかなあ。
「性格の不一致」で別れられる贅沢
「燃ゆる女の肖像」と「君の心に刻んだ名前」を観ていて、もし社会的な制約がなく二人が一緒にいられたらまた別の結末になってだだろうなと思った。同性同士だと時代や場所によっては共に生きる選択をするのも困難なので、付き合ってから「性格の不一致」で別れることさえできない。エロイーズとマリアンヌ、アハンとバーディも付き合ったら案外色々合わなくて揉めて別れたかもしれないが、そういう未来すら手に入れられなかった。
初恋だから、かなわぬ恋だったから美しい思い出になるのだという感想も目にした。しかしこの二作品が「かなわぬ恋」になった理由の大部分は社会の無理解のためだ。それを考慮せずに単純に「若い時にうまくいかなかった恋を美化した作品」と結論づけられているのをみるとちょっと悲しい。
(というか過去の恋愛を美化していても、それが素敵な映画になるのならそれもいいのではないか?)
どちらの物語も、強く惹かれる二人を少なくもよく練られた台詞と鮮やかで重いカットで描写する見ごたえのある作品だった。