バカ野郎!ひとりにしないでよ。アメリカで夫に先立たれた妻のバイブル(11)
掃除のできない女
私は掃除が好きだ。
床を丁寧に掃除する。
海外の家は土足が普通なのだが、我が家は土足禁止。
それほど広い家ではないが、必死にモップを振り回す。
汗だくになりながら、腰をかがめ数時間。
「ふぅ…」
老体に鞭を打つ。
「すごくいい匂いがする。気持ちいいな。ありがとう」
笑顔で褒めてくれる夫。
夫はリモートワークなので、自宅のオフィス部屋で仕事をしている。
タイミングよくオフィスから出てきてこの一言。
我が家の日常だった。
そんな言葉が聞きたくて掃除をしていたと今になって思い知らされる。
私自身……綺麗好きだと思っていたけど、本当はこの言葉が聞きたかっただけなのだ。
夫を亡くして何が辛いって、掃除。
遺品整理とかしようと思うのに、埃のついた彼の持ち物を触るだけで過呼吸になってしまう。
私は、掃除のできない女。
自己嫌悪の毎日でもある。
「バカ野郎!」今日も夫に向かって悪態をつく。