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ケース5. 心理的リアクタンス〜変化を促すフィードバック〜
▶︎人を動かすためのフィードバックで大事な視点は?
仕事は1人では完結できないものである以上、協働は必須。
しかし、理想像を相手に求めることには苦戦することが多いのではないでしょうか?
経営の視点:
・行動を変えて成果を上げてほしい
・フィードバックを納得させることが難しい
現場の視点:
・フィードバックに納得できない、意図が分からない
・自身の事情を理解してほしい
カーネギーの名著『人を動かす』にもあるように、人を動かす秘訣は自ら動きたくなる気持ちを起こさせることができるか。
論理だけではなく感情によって人は行動することを心得ておかなければなりません。
一方、実態は時間的にも精神的にも余裕がないことが起因して、トンチンカンなフィードバックで変化を生み出せない職場も少なくなく、フィードバックをしても意思疎通ができていないことが実情です。
そこで、今回は心理的リアクタンスという概念を用いて、適切なフィードバックについて考察します。
▶︎心理的リアクタンス
心理的リアクタンスとは、アメリカの心理学者ジャック・ブレーム氏が提唱した概念であり、自由を制限されたり奪われたりすると、自由を回復しようとする心理が働く性質を指します。強引に説得しようとすると、相手は選択の自由が脅かされたと感じ、反発を招くことになります。
人は生まれながらに、自分のことは自分で決めたい欲求を持っているため、例えば、他の人から何かを禁止されたり、一方的に指示を受けたり、性格を決めつけられたりすると、心理的リアクタンスが生じます。
説得的コミュニケーションの研究においては、この心理的リアクタンスに注目され、相手の抵抗を抑制することが説得に必要とされています。
つまり、フィードバックは、相手の心情を慮っていなければ受け入れられない可能性が高くなってしまうのです。
では、心理的リアクタンスを抑制するフィードバックには何が必要なのでしょうか?
▶︎情報を収集して整理の上で説得する
『人を動かす』の人を説得する原則では、”相手の身になって考えること”が重要と説かれています。
フィードバックをする際には、相手は自分が間違っていないと思っている状態からスタートすることが大半です。
そのため、指摘をする前に相手を理解しようとしていなければ、お互いの持論が平行線で進んでしまうため、相手の身になって考えることが重要です。
指摘は細かいところまで、いくらでも湧き出るため、そもそも相手の間違いを、何のために指摘するのかを考えなければ、良かれと思ってのフィードバックが、いつの間にか思わぬ方向に脱線してしまうことがあります。
人材開発・組織開発を専門とする中原淳教授は、著書『実践フィードバック』の中において、フィードバックとは、”相手が成果をあげられるように正しい方向に導くこと”として、”相手の問題点を具体的かつロジカルに伝えること”を鉄則としています。
相手には相手の言い分があるため、決めつけず、情報を収集した上で通知し、対話によって、問題のある現在の状況と目標とのギャップを明らかにしなければ意図が伝わらないのです。
そこで、中原淳教授はフィードバックする上で、主観を排除して相手を納得させるために下記のSBI情報で多く集めていくことを推奨しています。
①Situation (状況)
どのような状況で、どんなときに問題であったか
②Behavior(行動)
どんな行動が問題であったか
③Impact(効果)
問題行動がどんな影響をもたらしたのか
加えて、行動から時間が経ってしまうと指摘しても詳細を思い出せないため、フィードバックは即時性が重要であり、いつやった行動なのかが曖昧なフィードバックには注意しなければなりません。
また、『実践フィードバック』の中では、下記のようにタイプ別のフィードバック手法が掲載されています。
①逆ギレタイプ
思いをすべて聞いた上で、メタ認知で自分の感情を客観的に見つ直させる
②逆フィードバックタイプ
「もしあなたが○○だとしたら、どう思いますか?」と仮定法的な質問で視点を変えさせる
③都合良く解釈してまとめるタイプ
具体的にどう言うことだと思うのかを尋ね返す。
④大丈夫とポジションに逃げるタイプ
オープンクエスチョンで尋ね、深掘りする
⑤別の話題にすり替える現実逃避タイプ
自分の伝えたいことを意識して、すぐに話題を戻す
⑥責任逃れの言い訳タイプ
言い訳を好き放題言わせて、オウム返しで論理の綻びを気付かせる
⑦アドバイスを受け流す聞く耳を持たないタイプ
SBI情報でロジカルに指摘する
⑧自分の意見を言おうとしないお地蔵様タイプ
本人が周囲からどのように見えているかを客観的に伝える
⑨リスクを恐れる消極的なタイプ
事前にキャリアビジョンを聞き、現状維持では将来が危ないとはっきりと伝える
このように人によってタイプも異なることから、心理的リアクタンスを抑制フィードバックするだには、相手を理解して情報を整理することが重要と言えるでしょう。
▶︎ポジティブフィードバックとネガティブフィードバックのバランスを工夫する
多くの人は、周囲の人から認められることを渇望する欲求を持っています。
そのため、褒めや励ましによってポジティブな状態になり、ダメ出しばかりをしてしまうと向上心が阻害されてしまいます。
チリの心理学者であるマーシャル·ロサダ氏は、「ポジティブな感情とネガティブな感情がおよそ3:1以上の比率になってると、人は意欲的に働く」という「ロサダの法則」を発見し、1回𠮟ったら3回以上褒めることが必要で、それ以上𠮟ってしまうと、人は自信を失ってしまうことを明らかにしています。
同様に、自己効力感の研究においても、フィードバックは伝え方次第で、言語的説得として自己効力感を高めることもあれば、下げてしまうリスクが明らかにされています。
※自己効力感に関する過去記事
育成が上手なリーダーは、相手に自信を持たせることができ、一方、育成が下手なリーダーはダメ出しばかりで自信を削ってしまうのです。
具体的なケースとして、サイバーエージェントの常務執行役員CHOとして人事全般を統括する曽山哲人氏は、著書『若手育成の教科書』の中でも、期待をかけることを育成の基本としています。
期待を話すことで、相手の視点が未来に向き、ポジティブな感情で向上心が芽生え、成果につながるサイクルが回っていく。
リーダーは、期待を上手く伝えることが重要です。
また、『人を動かす』の人を変える原則においては、”相手の顔を立てること”に注意すべきと説かれいます。
自尊心を傷つけられた相手は、結局、反抗心を起こすことになってしまうからです。
スティーブ・ジョブズやジェフ・ベゾスなどを支えたシリコンバレーの名コーチのビル・キャンベルは、批判的なフィードバックに伝える際には、人目のないところで与えることにも気を配っていました。
フィードバックは徹底的に正直で率直に、そしてできるかぎり早く与えることが重要であると同時に、ネガティブなフィードバックは人目のないところで伝えることにこだわっていたのです。
ダメ出しは心理的リアクタンスを喚起してしまうことから、フィードバックをする際には相手の心情を配慮することが重要であり、ポジティブなフィードバックとネガティブなフィードバックのバランス、演出を工夫することで、狙える効果で異なると言えるでしょう。
▶人の心情を理解したフィードバック
『人を動かす』には、下記の一節があります。
ーーーーー
犯罪者は、たいてい、自分の悪事にもっともらしい理屈をつけて正当化し、刑務所に入れられているのは不当だと思い込んでいる。
ーーーーー
極端な例ではありますが、自分が正しい、間違っていると考えていることを同じように相手が考えているとは限らないことを示す真理ではないでしょうか?
そして、もう一つの真理は、人は社会的共依存の生き物である以上、誰しもが多かれ少なかれ周囲の者に認めてもらいたいとの承認欲求を持っているということです。
仕事は1人では完結できないものである以上、フィードバックという説得を通じて、人の変化を促すことが重要となります。
心理的リアクタンスのような人の心情に配慮できる、すなわち立場に関わらずに人として互いに尊重し合える文化が組織力に繋がるのではないでしょうか。
※本noteでは、人の可能性を拓く組織づくりのための新しい気付きを届けることを目的に、組織論とケースを考察していきます。
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