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今日ときめいた言葉225ー「自民党は保守なのか」

京大名誉教授 佐伯啓思氏の言葉(2024年10月2日付朝日新聞)から。

記事では、佐伯氏を「保守の立場から様々な事象を論じる人物」として紹介している。確か、昔、思想や哲学を学ぶ学生が佐伯氏を「保守の大御所だ」と評していた。

私自身は佐伯氏の著書を読んだことはなく、保守という思想についても深く学んだこともない。ただ時折新聞に掲載される佐伯氏の寄稿文を読んでいつもなるほどと感じるものがある。だから「保守」という言葉には漠然としたイメージしかもっていない。今回、そんな私の興味を引いた「保守とは何か」という佐伯氏の言葉を自分の理解のために書き留めておきたい。

一言で言うと「保守政党を認ずる自民党がこの30年間、改革を標榜してきたことは異常ではないか」と佐伯氏は論じる。

そもそも、この度総理に就任した石破氏は政治改革法案に賛同して離党し、その後復党した人である。90年代はジャーナリズムや世論は改革の時代で、自民党改革から始まり、政治改革、行政改革、経済構造改革と「改革狂の時代」だったという。そんな自民党に「自民党とは何か」と問うと「保守政党」であると答えるという。

では「保守とは何か」
答えはそう簡単ではないと佐伯氏はいう。平成に入って以降「改革」の旗振り役が自民党であったことを考えれば、自民党にとって保守とは何なのか

現在の自民党は、歴史的に2つの政党が合同して結党された党であるが故に、党内には2つの方針が混在しているという。1つは、「国防の米国依存と経済成長追求」、もう1つは「憲法改正・自主独立」。現実的には「平和憲法・日米安保体制のもとでの経済成長」、いわゆる「吉田ドクトリン」が基軸となっている。

この矛盾する立場の違いを冷戦という世界状況が多い隠した。社会主義の脅威から民主主義を守るという「体制の保守」が自民党の使命になり、「対米依存の保守」という矛盾に満ちたものが自民党のアイデンティティーになったと説明する。

だが、問題は「冷戦後」である。自由主義陣営の勝利は、自由・民主主義・法の支配といった米国流の「リベラルな価値」の世界化をもたらした。この「普遍的な価値観」を守ることが米国の使命であるという「ネオコン(ネオコンサーバティブ)」つまり「新保守派」の作り出した歴史観を今日、日本は受け入れている。そして日本の指導者はことあるごとに「日米は価値観を共有している」と言っている。

それでは「価値観とは何か」
佐伯氏は価値観には、2つの次元があると言う。1つは公式的で明示的に述べることができるもの。「リベラルな価値」のように。もう1つは「明示的な表現は難しいが、その国の歴史を通じて維持され、文化や人々の精神のなかに宿り、日常生活を支えてきた慣習や習俗である。それは道徳や倫理観であり、自然観や死生観や歴史観やさらには宗教意識でもある」そして、続けて以下のように述べている。

「私には『保守主義』が最大限の関心を払うべきは、後者のいわば『潜在的な価値観』だと思われる。憲法や政治学の教科書に書かれるような『リベラルな価値』という公式的で明示的な価値は、確かに米国とも共有できるかもしれないが、背後にある『潜在的な価値』は、決して日米で共有できるものではない。実際、日本人の持つ歴史意識は、米国のネオコン型のそれとはまったく異なるであろうし、個人の自由に対するほとんど無条件の信仰は日本にはほぼ存在しない」

そして現代のグローバリズムは、自由や富の無限の拡張を求めて変化そのものに価値を置く多忙を極める精神であるという。新奇なものに価値を求め既存のものを捨て去る。たえざる過去の破壊という革新の精神とは、実際には一種の自己否定である。過去を顧みないものは未来を大切にすることはないという。

「保守とは何か」について、佐伯氏は英国の政治哲学者マイケル・オークショットという人の言葉に惹かれると言って以下のように紹介している。

「保守とは、抽象的な理念やイデオロギーではなく、人の性格であり、生きていく上での態度である。それは見知らぬものよりも慣れ親しんだものを好み、ありあまるよりも足りるだけのものに満足し、完璧なものよりも重宝なものを大事にし、理想郷における至福よりも現在の笑いを好む態度である」

そしてこのように締めくくる。
「このような保守的な態度」こそが、われわれの社会生活を真に信頼できるものとするのである。「保守とは何か」は、われわれ自身に問われていることなのであると。そして自民党が「保守政党」たらんとするなら、この激しい変化の波から「守るべきものは何か」と問うことでなければならないという。

以上がおおまかではあるが、私が読み取った佐伯氏の考える「保守とは何か」である。

「潜在的な価値観」は、日米では大きく異なると言っているが、それは世界中のどの国々の人々との関係においても同じことが言えるのではないだろうかと思った。

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