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今日ときめいた言葉289ー「敗北する米国」(エマニュエル・トッド)
(2025年2月26日付 朝日新聞「敗北する米国」 仏人類学者・歴史学者 エマニュエル・トッドの言葉から)
トッド氏は、乳幼児の死亡率のデータを基に1976年に15年後のソ連崩壊を予測したことで知られた学者である。乳幼児の死亡率は、乳幼児が社会の最も弱い存在であることから、社会の状態を理解し評価するのにとても重要な指標だという。その死亡率は2020年時点でロシアよりアメリカの方が高くなっているそうだ。日本は依然として世界でも最も低い水準を保っているという。
トッド氏の視点
「アメリカはロシアに対して、非常に屈辱的な敗北を経験しつつある。政治的な世論操作と心理的な作戦によって、まだ明確にそう受け止めていない人も多いかもしれないが、事実上の敗者はアメリカである」
この考えは、「こうあるべきだとか、何が正義かといった観点からではなく、歴史の視点から語っている」のだと。アメリカがロシアとの対立に勝てないことについては、昨年出版した「西洋の敗北」で詳しく述べられているということだが、日本語版フランス語版22ヵ国で出版されているが、イギリスやアメリカなどの英語圏では翻訳の話すらないという。
アメリカ社会における倫理・宗教観
「現代のアメリカはかつてのようなプロテスタンティズムの国ではない。むしろ『プロテスタンティズム・ゼロ』に向かっている。かつてマックス・ウェーバーが分析した19世紀のプロテスタンティズムと現在の福音派は全く違うものである。かつての伝統的なプロテスタンティズムでは人々は多くの道徳的規律を守っていたが、現代のアメリカ社会は『宗教ゼロ』状態になっており、虚無的で退廃的になっている。トランプ氏はどうみても退廃的なデカダンスであり、イーロン・マスク氏も典型的なデカダンスである」
トランプの保護主義について
「トランプ氏の保護主義は成功しないだろう。関税をかけて外国から製品が入らないようにするだけでなく、国内でその製品を作れる産業を育てられなければ、国民は幸福にはなれない。アメリカは国内産業を再建できない状態である。これから100年単位の歳月をかければ可能性があるかもしれないが、当面は手遅れだというのが私の分析だ。なぜなら、技術者や熟練した労働者がいないからだ」
アメリカの繁栄の意味
「アメリカの繁栄は、ものを作っているからではなく、ドルという通貨を発行しているからである。ドルの力が強いので、逆に他国の産業に依存してしまうし、優秀な若者は(製造業以外の)より多くの収入を得られる分野に流れてしまう。アメリカの繁栄は、国外の産業や労働力に頼っているのだ」
USスティール買収問題
「日本からの投資が『スティール』つまり『盗まれてしまう』ことが心配である。ジェームズ・ガルブレイス教授が『捕食する国家』(邦訳『巨大帝国アメリカの崩壊』)で書いているように、アメリカという国家は肉食動物のように合法的に外国の財産を奪い取ることが珍しくない」
日本の進むべき道
「屈辱的な経験をするアメリカはパートナー国に対して、いじめっ子のような態度に出ることが予想される。今まで日本にはもっと主体的に責任を果たすべきだと語ってきたが、今回はそれとは異なり、『当面は静かに、目立たないようにすべきである』できるだけ対立には関与しないようにして、自国の産業システムを守ることである」
トッド氏からの提言
「日本は、地政学的な対立に直接的に関わるのではなく、米国が衰退する世界のこれからを慎重に見守ることが大切である。謙譲の精神にあふれたみなさんにとっては、難しいことではないと思う」
衝撃的な言葉の数々で痛快な気分になったけど、西洋が敗北した世界ってどんな世界になるのだろうか?「静かに目立たないように」なら得意な日本だけど、日本の既定路線には変化はないようね!