コロナウイルス時代におけるムーブメント(社会運動)の構築 4/4 〜アンジェラ・デイビスとナオミ・クラインによるティーチ・イン〜
★今回のヘッダー画像は、@lizar_tistryがこの討論会でのインフォグラフにまとめたものを拝借します。ありがとうございます(文末にも貼り付けます)。
2020年4月2日に開かれた討論会の日本語訳の最終回です。
コロナウィルスをトランプ政権が「外来・中国ウィルス」と呼ぶことが歴史的差別構造の再生産であること、インターネット権とデジタル・コモンズの模索、国家やオンラインを超えた組織など、現在起きていることをどう捉え直すかについての議論です。
動画:https://www.pscp.tv/w/1YqKDEwwZnaGV
英語原文: https://tinyurl.com/vo3jcra
コロナウイルス危機の時代におけるムーブメント(社会運動)の構築
〜アンジェラ・デイビスとナオミ・クラインによるティーチ・イン〜
登壇者:
アンジェラ・デイヴィス
ナオミ・クライン
シンディ・ワイズナー(Grassroots Global Justice)
モーリス・ミッチェル(Working Family Party)
ローン・トラン(Southern Vision Alliance)
司会:ゼンジウェ・マクハリス(Rising Majority)
この対談は4回にわけて公開しています。→ 1 I 2 I 3 I 4
なお文中太字や、()内の注釈は訳者によるものです。
ゼンジウェ・マクハリス:本当にありがとうございます。ローンに話していただいてから、メインパネリストのお二人に質問をして終わりにしましょう。Rising Majorityは、ラディカルな民主主義によって、反人種差別主義の左派を形成すべく力をそそいできました。ローンさん、あなたの取り組みはもっと広い範囲のものだと思いますが、コロナウィルス危機のなかでの外国人差別とアジア人種差別についてお話いただけませんか。
ローン・トラン: もちろんです。ゼンジウェ、ありがとう。そして他のパネリストの皆さんとの対話に本当に感謝しています。ご存じのように、トランプは今この瞬間、COVID-19を「外来ウイルス」または「中国ウイルス」と呼んでています。これは明らかに反アジア人、特に反中国のレトリックですが、彼は悪いとも思っていないし、またその発言も検閲もされない。ざっくりと理解するなら、アジア人がこの世界的疫病で死んでも、それは大した問題ではないということです。さらにこの種のレトリックがアジア人について何を物語るのかを少し考えれば、わたしたちアジア人が帝国主義戦争、気候災害、環境破壊や占領、あるいは新植民地主義の犠牲者であっても、場所を問わずー米国内、そしてアメリカ帝国が世界中ででっちあげてきた帝国のどこであろうと—構わないということです。アジア人なら搾取、飢餓、独房監禁、居住環境の不備や無給労働の犠牲者であっても問題ないのです。このような反アジア的なレトリックは、アジアの人々を殺すだけでなく、私たち全員をも殺すような社会経済政策に根ざし、それを正当化するものです。
すでに他のパネリストの方々も話されたように、私たちは—占領された地域、刑務所や拘置所の中に住み、生活をまかなえない賃金、荒廃した学校などの現実を抱え、警察のサイレンやICE諜報員による弾圧の恐怖と隣合わせに暮らし—この危機が始まる前からすでに脆弱でした。トランプの反アジア人種差別はとても陰険だと言わずにはおられません。そして残念ながら、これは全く想定内です。私たちが死にものぐるいで組織しない限り、コロナウィルス蔓延の危機から生じる社会的および経済的政策は、度を超えたファシストの政府によって、すでに機能していないインフラをさらに悪化させながら、富裕層のためにのみ機能し続けるでしょう。
トランプ政権の推進する反アジア人種差別や外国人嫌悪は、本当の危機を明らかにしています。それは白人至上主義、反黒人主義を基盤とした人種差別資本主義であり、いまこの瞬間においては、アジア人を周縁化し敵視しています。エリートたちは手慣れた方法でーーいまは多国籍企業という姿で—私たちが受け入れがたいことを隠す策略を続けています。アマゾンのような企業は、人種差別を利用して自らを守り、いわゆる自由市場からの大規模な救済を受けることができます。アジア人たちは、彼らの動きを見ながら死ぬのを待つしかありません。このような周縁化や外国人嫌悪はイスラム教徒の姉妹兄弟たち、私たちの身近にいる法的書類を持たぬ人々、国中の黒人、褐色、先住民族が常に経験してきたことです。このような仕打ちの基準は、誰がどこにいて、誰が誰に属しているかという非常に残忍な解釈に基づくものです。
私たちが何をするにせよ、それはアジア人のせいではないということを、決して忘れないでおきたい。コロナウィルス蔓延の危機は誰のせいでもありません。黒人や有色人種、移民、女性、労働者のせいではありません。これは地球全体の危機であり、指を指して批判、指摘するなら正しい場所を指さなければならない。私たちの生死を不当に定義する機関から責任者を引きずり下ろし、責任をとらせるために力を築かなければなりません。結局COVID-19はウィルスであり、資本主義は危機であり、そこで出すべき答えは私たちの連帯と組織なのです。あらためていいますが、この現状を打破してより深いレベルで危機と向き合いたい、たたかいたいと感じる人はRising Majorityについてぜひ知ってください。ウェブサイトから最新情報や行動についての情報を得られます。SQUADUPに90975とSMSを送ることもできます。また、他の組織につながっている人は、私たちも近いうちにZoomでの情報提供をしますので、よろしくお願いいたします。私たちが必要なことについては、すでに明らかに打ち出されていますね。囚人の釈放、生活の補償ができる賃金、生活に不自由のない住居…これらの要求は、決して私たちの求めてよしとされるものの上限ではないのです。それはあってしかるべきもの、言うならば私たちの足元の床です。では私たちにとって、上を見上げたとき、新しい天井とはどんなものでしょうか?それをみんなで探るために、Rising Majorityと戦っていきたい。皆さんにも参加していただきたいです。ありがとう。
ゼンジウェ・マクハリス:ありがとうございます。そろそろ、このティーチ・インの終わりに近づいてきました。アンジェラ・デイビスとナオミ・クラインにもう一度対話に戻ってきていただきましょう。いま起きていること、直面していること、そしてこの瞬間に私たちに何が求められているのかについて、今日多くのことを学びました。どんな力を構築すればいいのでしょうか? 活動家や現在情報を集めている何千人もの人々、Rising Majorityのリーダーやオーガナイザー、あるいはこの危機の最前線でたたかっている人々にに伝えたいことはありますか?いま何を自分たちができるかを手探りでみわたそうとする人々すべてのために教えて下さい。リーダーシップとは何でしょうか? 力とはどのようなものですか? ナオミ、そしてアンジェラの順でお答えねがいます。
ナオミ・クライン: まず最初に、モーリス、ローン、そしてシンディが、生き生きとした素晴らしいアイデアと真のリーダーシップを示してくれたことに感謝します。お話を伺いながら思い出したことがあります。私が危機のなかでの変革とその力について考えられるようにしてくれたのは、アルゼンチンでの暮らした経験です。2001年にアルゼンチンの経済が崩壊し、3週間で5人の大統領が誕生しました。すべてが崩壊し、人々はがれきの中で新しいなにかを作り始めたのです。私がみたなかで一番劇的だと感じたのは、所有者に見捨てられた工場が協同労働組合(コープ)に変えられた、その一連の流れ2001年にアルゼンチンの経済が崩壊し、3週間で5人の大統領が誕生でした。
国際的な連帯について、南側のリーダーシップ、北側の先住民コミュニティ、そして食料主権運動から学ぶべきだとシンディが発言してくれたことに、本当に感謝しています。というのも、このコロナウィルスの危機で中小企業は崩壊するからです。(アマゾンの共同経営者である)ジェフ・ベゾスだけが一人荒野で生き延びているような結末は避けたいですね。今つぶれそうなレストラン、店を閉めたネイルサロン、その他の廃業に追い込まれたビジネスで働いてきた労働者たちには、自らその職場を自分たちのものとして引き継ぎ、協同組合化する権利があるのです。これは私たちが勝ち取るべきことの一つです。People’s Bailoutが立法的な仕組みとして「人々による救済」と名付けて提案しているものですよ。そこも皆さんにお伝えしたいですね。
もう1つ大切なのは、今起きているデジタルでの組織化についてです。重要なことが2つあります。まず私たちにはインターネットに対して権利があります。インターネットはすべての人にとって、電気やガスと同じようなライフライン、公共事業ですね。でも今はごく少数の大企業がインターネットを牛耳っています。さきほどから弾圧など、コロナウィルス危機への権力側の反応を議論していますね。その反応の一つは、彼ら大企業によるインターネットの一方的シャットダウンです。彼らにはそれが可能であるという事実を、私たちがこれを認識し、それに備えるほかありません。インドのモディ政権下で、カシミールのインターネットアクセスが制限されたことを思い出してください。(Facebook創始者の)マーク・ザッカーバーグの許可などなしでも、お互いと通じあえるように、私たちもなんとかしなければいけません。課題や方法は様々な形で示されるべきですが、とにかくインターネット権は、優先順位の高いものです。続いて真のデジタル・コモンズにむけた闘いも、私たちがとげるべき変容の一つです。Peoples’s Bailoutによる「人々による救済」という考え方には目をみはるものがあります。彼らのウェブサイトGreen Stimulusを覗いてみてください。そしてtheleap.orgもおすすめします。これらの組織は、変革にとって重要な枠組みをを提案していますし、いろいろな人がいま話題にしていますよ。
ふたつめは、みなさんもお気づきのことです。あらためて考えましょう。お互いに会いたいなと思いますよね。コンピューターなどのスクリーンで多くの時間を費やす一方で、私個人としては、その時間を減らして、オフラインのコミュニティで、対面で人と会いたいな、と思います。そんなことをもっと簡単に行えたり、行えそうだと思える世界に、私は住みたいのです。ケアワーカーの人たちに感じる愛をおもい起こしましょう。お互いを大切にしたいと思う欲求を尊重し、そこに根ざし、価値を見出す経済を築こうではありませんか。春のこの時期に、自然のなかに見出した慰めをおもい起こしましょう。お互いを、そして地球を大切にする経済を築きましょう。できますよ。モーリスが言ったように、家賃スト、債務スト、場合によってはゼネストさえも含めたありとあらゆるツールを使えば可能でしょう。 その中から生みだされるものには、ハッシュタグはついていないはずです。私たちはシリコンバレーから供給されるもの以外で組織をする方法を見つけなければいけません。
この危機において、私自身が難しさを感じるのは、7歳になる我が子に、人間は細菌をもっている、他の人に気をつけて、怖がれと教えなければいけないことです。私自身が本当に彼に教えたいのはその真逆です。言うまでもなく「他の人」こそ私たちにみえる、与えられたすべてなのです。人々が対立するときにこそ、たとえ隔離された状態にあっても、お互いに手を差し伸べて精一杯に力をつみあげなければいけないことを、思い起こすべきです。私たちはつながっていることを、思い出さなければいけないのです。
ゼンジウェ・マクハリス: ナオミ、ありがとう。私たちはお互いに手を差し伸べなければいけませんね。アンジェラ、ティーチ・インを終える前に、ぜひ一言お願いします。
アンジェラ・デイヴィス: このような意見交換の機会を与えてくれて、本当にありがとう。私はこの1時間で多くのことを学びました。私は人々が、世界の他の地域からこの会話を見ているということを、事実として深く知り、感じています。今ここでと同じような会話を、アフリカ、南アメリカやインドの人とも私たちはできるのかを自問します。ブラジルの状況がここよりはるかに悪いという現実について考えます。わざわざここで私が(ブラジルと米国の)2人のリーダーの類似点についてはお話しません。しかし、米国の私たちは、ブラジルや南アフリカのような国々で創造的にこの危機に取り組んでいるリーダーシップと出会うことができると思います。
私が繰り返し思い起こすのは、いまのところ、私たちが国家の境界の内側で生活せざるを得ないという現実です。しかし、国民国家なるものは、もはや我々の生活を向上させるような形で機能していません。みればみるほど、国家はますます時代遅れになってきている。これがこの危機の最中に起きていること。ですから私は国際的な会話や組織化をとても楽しみにしています。このような会話は何度も繰り返されるべきです。デジタルな方法でね。そして、ついにお互いに直接コンタクトをとれる日が来る頃には、どん底でのたうち回る準備をしておいたほうがいいでしょう。大規模なデモや運動を組織し、すべてのストライキを支援しなければなりません。この資本主義の怪物から逃げ切り、より良い未来に向かって歩き、走ることのできるように自助を続けられる編成を組み、組織をするよう務めなければなりません。ナオミ、今日はほんとうにありがとうございます。ゼンジウェにも感謝しています。シンディ、モーリス、ローン、このイベントとRising Majorityを支えてくれたすべての皆さんに感謝しています。
ゼンジウェ・マクハリス:ありがとう、アンジェラ。あらためてグローバルな分析をし、私たちの組織の中でも地球規模で思考をしなければならないということですね。またブラジルや南アフリカの運動とも交流を深めたいものです。
きっとこのティーチ・インを視聴している皆さんにとっても、有意義な学びと成長の時間となったと思います。しかし、これは行動への呼びかけでもあります。私たちは危機的状況にある。その中でいまこそ、最も大胆かつ力強い自分たちでいなければなりません。いま私たちの歩む道は、私たちにとっての機会となるだけでなく、なすべき課題、そして調和をつくりあげる要求でもあります。私たちがいま共に取り組むことこそが、深く力強い戦略によって、私たちの子どもたち、この地球、そしてこれからまだ見ぬ、これから生まれてくる命のすべてに値するものでありますように。
ここで感謝を申し上げます。まず世界中から視聴・参加している皆さん。そしてナオミ・クライン、アンジェラ・デイビスの素晴らしい知恵に。そして分析と展望を提示してくれた仲間であるモーリス・ミッチェル、シンディ・ワイズナー、ローン・トランに感謝します。
繰り返しますが、すべての人に、行動と、オンライン上でこの会話を続けていくことをお願いしたい。私たちには、ばらばらではなく、共同体として、愛を実践する必要があります。お互いを見つけるために、ハッシュタグ#risingmajorityを使って、これからも沢山の会話やティーチ・インをフォローしてください。もし携帯電話を使うなら、MAJORITYに90975と送信してください。、またホームページtherisingmajority.comでも最新の情報を発信しています。
私たちはわかっています。いま恐ろしさにうち震える人、大きな挑戦に立ち向かわなければならない人がいる。私たちはお互いの助けとなり、だれかに手を差し伸べるでしょう。私たちを助けてくれるのはコミュニティであり、お互いへの愛です。いまそのすべてを知っていること、私たちがどれだけ力強いものであるかを感じることが、私たちをこの状況で先へと導き助けてくれるのです。参加していただき、ありがとうございます。またの機会にお会いしましょう。さようなら、皆さん。
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訳者ミニあとがき:
ここまでお読み頂き、ありがとうございます。
noteで翻訳をするのは初めてなのと、幾分慣れない作業なので、読みづらい部分もあったかと思いますが、今回はスピード重視で翻訳をしました。いずれきちんと文章を整えていきます。翻訳を行う上で、アドバイスなどありましたらメッセージやコメントでお願いいたします。
通訳や翻訳は、資本主義の中では認知されづらい作業で、使い捨て労働です。私が訳したものに関しては、「萩谷海」とクレジットを入れて自由にお使いください。コロナ危機で仕事が激減した中でなにか契機につながるかもしれません。今回の翻訳は、まさに自分の工場を自分で取り戻すべくの作業でした。懐具合に余裕がある方は、ぜひサポートを通して投げ銭でのご支援をお願いいたします。
@lizar_tistryがこの討論会でのインフォグラフにまとめたものが、この討論会のまとめとして素晴らしいなと思いましたので、ここに貼り付けておきます。
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