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エモいって何だろう ~言葉と感情の「あいだ」を満たすもの~
ここ半年ほどで、自分で書いた文章表現に対して、とてもありがたいことに「エモい」という言葉をかけていただくことが何度かありました。
「エモい文章」、「音楽的なエモさ」。
嬉しくて ニヨニヨしてしまう一方で、ふと思ったことは、
表現の中のどの要素を見て「エモい」って感じてくれたんだろう。
そもそも、「エモい」ってなんだろう?
「エモい」という言葉は、
わたしが青春を過ごした1990年代後半にはまだなかったし、「ヤバい」と同じようにオールマイティに使える言葉だから、なんとなく使うことを避けてきました。それよりは、その時々の感情に合った言葉をきちんと探して表現した方がいいと、漠然と思っていました。
だけど同時に、こうも思います。
本当に心が動かされた時、人は言葉を失う、と。
ただただ、生まれたその感情を味わっていたくて、ほとんど思考が入り込む余地がなくて、ぴったり言い表す言葉を探すことさえ、もどかしい。それはきっと、推しを目の前にした人が「尊い……」以外の言葉を失ってしまうのと同じ。
言葉が見つからない時に、それでもなんとか「自分がいま強烈に心を動かされた」ことだけは共有したくて、たった一言しぼり出したとしたら、その言葉は「エモい」。になるんじゃないかと。
たぶん、「エモい」で表したい感情は
複数の領域にまたがっています。
切ない・感動的・センチメンタル・ノスタルジック
懐かしい・もの悲しい・寂しい・美しい・情緒的
これらの感情のどれか一つだけではなくて、複雑に混ざりあっているから、一言だけを選ぶことが難しいのだと思うんです。
「切なくて、懐かしくて、美しくて、心揺さぶられる」。
それをすべて言葉にしていたら、感情の繊細な移ろいには、とても間に合わない。だから、ただ一言「エモい」とだけ口にする。
「言葉:感情」の関係は、「1対1」のことが多いけれど
ときに「1対多」、ひとつの言葉で複数の感情を表したくなります。
「切なくて、懐かしくて、美しくて・心揺さぶられる」をたった一言で、それを受け取った相手と何の解釈の違いも起こさずに
伝えられる言葉があれば。
おそらくですが、ポルトガル語にはあります。
それは「saudage」。
サウダージ(ポルトガル語: saudade, サウダーデとも)とは、郷愁、憧憬、思慕、切なさ、などの意味合いを持つ、ポルトガル語 , ガリシア語の単語。ポルトガル語、およびそれと極めて近い関係にあるガリシア語に独特の単語とされ(そのため、日本語への翻訳もできない)、他の言語では一つの単語で言い表しづらい複雑なニュアンスを持つ。
この「サウダージ」という単語を聞いて、ポルノグラフィティの切ない名曲を思い浮かべる人も多いと思います。(わたしも今でもカラオケで歌います)
「世界で一番、翻訳するのが難しい言葉」だと言われていて、それだけに、とても美しい言葉でもあります。
「郷愁」「憧憬」「思慕」「切なさ」
それらの繊細で、とても大切な感情を
たったひとつの言葉で、複数の言葉と言葉の「あいだ」を満たしながら、余すことなく表現できたとしたら。
きっとわたしたちは、その言葉を使わずにはいられないだろうなぁ。
そして、ずっと昔には、そんな言葉が日本語にもありました。
「あはれ」。
〔形容動詞ナリ活用〕
❶しみじみとした情趣がある。趣が深い。❷かわいい。いとしい。なつかしい。❸気の毒だ。かわいそうだ。いたわしい。❹悲しい。さびしい。
ポルトガル語の「サウダージ」がカバーする領域を
古語の「あはれ」もまた、満たしているように見えます。
ただ、現代を生きるわたしたちが、「あはれ」を日常で再び使うことは難しい。その響きは「哀れ=かわいそう」として、あまりにも強く定着してしまっているから。
せめてその代わりに、「エモい」という言葉を生み出した。
それはもしかしたら、数百年ぶりに取り戻した、「あはれ」の概念だったのかもしれない。
そんなことを妄想しています。
さて、わたしにとっての「エモい」ですが
この曲を聴いた時に、わたしもやっぱり、どうしても
「エモい。という言葉以外には、言い表せない気がする」と唸りました。
何クールか前の、NHK Eテレの「天才てれびくん hello,」という番組のエンディングテーマになっていた「ハローハロー」という曲です。
作詞・作曲を、ヨルシカのn-bunaさんが手掛けています。(※大好き)
何も無いからきっと
僕らは踊ってたんだ
何も無いからずっと君と踊ってたんだよ
忘れないよきっと
踊ろう、千年先もずっと
隠れ家の傍であなたを待ちながら
* * *
Youtube動画はこちらから
歌詞はこちらから
懐かしくて、
切なくて
もう戻らない
でもずっと大切にしている気がする
そういう類のもの。
本当に心が動いて、言葉を失う時は
複雑に混ざりあった感情を
おおらかに包み込むような、
曖昧な言葉がそばにいてくれる。
「エモい」とは、きっと そういう言葉。
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