【詩】お菓子の家
甘い香りに誘われて
ドアノブに手をかけた
サクサクのウエハースでできた 看板には
「Take a bite. Take a bite me」
溶けかけのチョコレートソースが指についたから
舐めようとした その刹那
竈から 炎の熱さと 魔女の不敵な笑み
マシュマロの額縁に飾られた誰かさんの自画像
クッキーとタルト生地でできたログソファ
ゼリーの粒が織り込まれたカーテンレースがはためいた
音を立てないように そーっと そーっと
りんご飴の細工が施された人形
瞳には琥珀糖の輝きが詰まっていた
ぐしゃぐしゃに泣きながら 今にも手を伸ばして
全てを食い尽くしてしまいたかった
蝶々が運んできた メッセージカード
「Run away, run away, soon」
ここでは、迷い子が惑わされ
いずれ 崩れ落ちてしまう
お菓子の家も 幻と化す
お菓子の家も 夢と化す
さあ、おとぎの時間は もう おしまい