第103回:謎の言葉と「愛される」ということ
こんにちは、あみのです。
今回の本は、芦花公園さんの『異端の祝祭』(角川ホラー文庫)という作品です。ホラー小説はあまり読まないですが、あらすじで既に見える独特な世界観に惹かれて読んでみました。
就職浪人のある女性が入社した大企業は「天国」かそれとも「地獄」なのか。作品ならではの世界観と作中で大きく展開される謎から目が離せない作品です。ホラーですが、怖さだけでなく謎解きの要素も強いので、ミステリーが好きな人にも楽しみやすいかと思います!
あらすじ(カバーより)
冴えない就職浪人生・島本笑美。失敗の原因は分かっている。彼女は生きている人間とそうでないものの区別がつかないのだ。ある日、笑美は何故か大手企業・モリヤ食品の青年社長に気に入られ内定を得る。だが研修で見たのは「ケエエコオオ」と奇声を上げ這い回る人々だった――。一方、笑美の様子を心配した兄は心霊案件を請け負う佐々木事務所を訪れ‥‥‥。ページを開いた瞬間、貴方はもう「取り込まれて」いる。民俗学カルトホラー!
感想
ホラーでありミステリーであり、そして物語の結末からは本物の「愛」って一体何なのか?を読者にも問われる刺激的な1冊でした。謎の叫び声「ケエエコオオ」に代表する今作ならではの不気味な言葉たちも中毒性があります。
自身の奇妙な体質もあって、これまで就活が上手くいっていなかった笑美がようやく見つけた就職先は大企業の「モリヤ食品」。社長のヤンは笑美を都合のいい言葉で誘惑し、闇のモリヤ食品に堕としていきます…。
民俗学的知識から紐解かれていく大企業の謎。そしてヤンとは何者なのか?笑美の兄が持ち込んだ依頼からモリヤ食品の真の姿に迫っていく佐々木事務所のるみ&青山の活躍は、ミステリー小説のような興奮と発見が楽しめました。
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私が今作で印象に残ったのが、先ほども書きましたが「愛」および「愛されること」についての描かれ方です。
笑美はモリヤ食品に入社し、ヤンの魔の手によって散々な目に遭ってしまいましたが、なぜ彼女はここまでヤンに夢中になってしまったのか。それには笑美の「誰でもいいから自分を愛してほしい」という気持ちの強さがあったように感じられました。
「愛されたい」って感情は、誰しもが持つものだと思います。笑美はその感情が強すぎて、嘘の感情を伝えてくる人や彼女のことを苦しめるような人にも「愛」を求めてしまいました。
今作の悪役というとまずヤンが思い浮かびますが、実は他にも彼と同じくらい笑美を苦しめていた人間がこの物語にはいたんじゃないかと思いました。
誰かを愛することは、同時に人生を楽しくすることでもあると私は思っていますが、世の中には悪い人だって少なくありません。
笑美のように「愛」を求めた結果、世間を騒がせるような事態に陥ってしまったり、知らないうちに自分の心を傷つけてしまったりしないためにはどうすればいいのでしょうか。
そのためには誰かの言葉に惑わされるのではなく、「その人が言っていることは本当に正しいのか」を自分自身で見極める力を身につけることが大切だと今作を読んで気が付きました。
私もどちらかというと他人の言葉を受け入れてしまい、自分にとって納得いかない結果を残してしまうタイプなので、笑美のようにならないために他人の言葉はあくまでも「ヒント」として、どんなことでも自分ではっきり判断ができる人間になりたいと思いました。もしかするとモリヤ食品のようなヤバイ世界にいつの間にか「取り込まれて」いるかもしれませんからね…。
奇妙な世界観を味わいたくて読んだ1冊でしたが、予想以上に学びもあって今の私としては非常に「読んで良かった」作品でした。
危険と隣り合わせにモリヤ食品とヤンの謎に挑んでいく るみと青山のコンビも最高で、このコンビの活躍はぜひシリーズ化してほしいと思いました。
今作が持つ不気味な世界観が気になった方は、笑美たちが目にした衝撃的な光景の数々をぜひ味わってほしいですね!
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