リベンジ牛すじおでん
主婦の方なら多いと思うが、スーパーの使い分けをしている。これを買うならここ、というのがほぼ決まっていて、牛すじを買うなら業スーだ。ふだん生鮮食品は別のスーパーで買うのだが、たまたま目に止まった牛すじがたっぷり入ってるわりにお安い。しめた、と思い、即購入。それをおでんに入れてコトコトと煮込むとほろほろに、実によい仕上がりになる。
その日も業スーをうろつき、寒いしおでんにしようと決め、肉売り場へ向かった。すると、すでに先客が。小粋なハットを深々とかぶり、コートの襟を立てた業スーユーザーとは思えない出立ちの紳士が肉売り場の前でじっと肉を見つめている。しかも、牛すじに焦点を合わせ、あ、と思った瞬間に紳士は牛すじを秒で捉え、カゴに納めた。残りひとつの牛すじだった。背後からのただならぬ気配を感じたのだろうか、それとも業スーなら牛すじ!ってわたしみたいに決めていたのだろうか。ワケのわからない敗北感に打ちひしがれ、徘徊する。あ〜牛すじないのかあ〜くそ〜じゃあウインナーでも入れようかな〜でも牛すじの方がぜったいにうまいよな〜おでんには牛すじやんか、くっそ。すると別のコーナーで紳士と遭遇、もしかしたら気が変わって、牛すじを棚に戻しているかもしれない、と未練がましく紳士のカゴをチラ見するも、ガッツリ牛すじが鎮座していた。心の中で舌打ちした。いや、ほんとに舌打ちしてたかもしれない。心なしか紳士の横顔はほくほくとしていた。
仕様がなくその日のおでんは牛すじなしで、やはり、何か物足りなかった。牛すじ争奪戦に一歩出遅れたくやしさをモロに引きずりながら、大根を頰ばった。
本日業スーへ寄ったら、牛すじがあった。紳士とは出くわさなかった。おでんをする予定ではなかったが、ついつい先日の悔しさから牛すじをカゴに入れてしまう。今回はじゃがいもも入れよう。帰宅してさっそく牛すじを煮こぼして一時間ほど煮る。すでにぷるぷる。このコラーゲンを肌という肌にすり込ませたい。大根とこんにゃくと一緒に大鍋で煮て、あとでじゃがいもと練り物を投入。心がすでにほくほくしている。
今晩のおでんは味がよくしゅんでいた。先週のおでんは味付けが薄すぎて、ぜんぜん染みてへんな、と不平不満をぼやいていた夫にたいしてのリベンジでもある。
今回は前より味付けを濃いめにし、煮込む際にフタをせずに水分を飛ばして煮詰めてみたら、(ちなみに夫のアドバイス通りである、夫はわたしより料理がうまい)2、3時間の煮込みで一晩寝かせた、みたいな染み具合。完璧だ。夫はひとくちたべて、うん、うまいことできてる、と唸った。そう?と涼しい顔をしながら、心で小さくガッツポーズをした。