きのうと今日のはざまの話
お酒が、好きだ。
仕事を定時退勤して、まず先に立ち寄る焼き鳥屋のビール。五臓六腑に染み渡る軽やかな苦味に、今日の仕事のあれこれをのせて流し込む。ぷりぷりの焼き鳥の肉汁が広がった口の中を次に満たすのは、炭酸強めのレモンサワー。レモンの酸味のせいか、ちょっと目の裏がパチパチする。話し声がだんだんと陽気になってきたら、ここらでビターなハイボールを。レモンサワーは大好きだが、ハイボールにはレモンを入れない派である。男女なんてもはや関係なく、喫煙者も非喫煙者もごちゃまぜになって、誰かが話してる仕事の愚痴も、リモコンがどこにあるのか分からないようなテレビから流れる知らない芸能人のスキャンダルも、スモークと紫煙に紛れていくさまが、わたしはとても好きだ。
2軒目の行きつけのバーでの最初の1杯はジントニック。深酒をするのは、休日前だろうが次の日が早番出勤だろうが関係ない。夜は、いつまでもつづいていく気がする。旬の時期のフルーツをふんだんに使ったカクテルは、今の時期なら桃やメロンを、シャンパンで合わせたカクテルが美味しい。あ、マンゴーも外せないな。秋は洋梨の、冬は林檎のホットウイスキー、春にかけては、苺のフィズ。バーの行きつけができてから、果物の旬の時期を知るようになった。みずみずしく、清新な食感を堪能したら、もう酔いも佳境。ロックにしたウイスキーの氷が、徐々に溶け出していく。軽く炙ったカチョカバロのチーズと、ほうじ茶の生チョコレートをゆっくりつまみながら、マスターの芸術を全身で味わう。煙たい喧騒とはうって変わった。誰からの干渉などない、心地よい香りが立ちのぼるこの場所で、高揚した酔いが熟していくような感覚を愉しむのが、わたしはとても好きだ。
どんなに真逆だとしても、わたしはどちらも同じように好きだ。
だって夜は、いつまでもつづいていく気がするから。
けれども、きのうと同じように朝が来て、きのうと同じようにわたしは決まった時間にバス停に向かい、きのうと同じように出社する。昨夜の酔いを少し引きずりながら、焼き鳥のタレの香ばしさを思い出しながら、満たされてオーダーできなかったバタースコッチ・ウイスキーに焦がれながら。わたしは今日も、きのうを活力にする。そして、また、終わらない夜を得るために、わたしは今日も、お酒が、好きだ。