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京都、餃子、おっちゃん。

今日、思い出の店が閉店する。

学生時代、餃子の王将といえばここしか知らなかった。大学の近くにも1店舗あったがこっちは庶民向けなんだ、デマオウに行け。デマオウ、私たちの魔法の合言葉だったかもしれない。皆で自転車を走らせ、狭い路地にずらりと自転車を並べる。同期みんなで頼むのは「ギョーテライス大」、餃子定食のライス大盛りである。

今となっては京都の至る所の餃子の王将に赴き、お気に入りの店舗もいくつかある。お腹いっぱいになりたいというよりはお酒を飲みたいという思いがあったのが大きいかもしれないが、いつのまにかデマオウには行かなくなった。そうこうしているうちに私は京都を離れることになる。

そんなデマオウが閉店する。餃子の王将出町店。出町柳を少し西へ。今出川から入ったところに古臭い店舗が1軒。

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昔、たまたま近くを通ったときに中には入らなかったが写真を撮った。いつもこの狭いところに自転車を4台並べていた。

「日本ラーメン」ののぼりがあるが、そんなもの提供しているのかと疑問に思ってしまう。この店でどこの王将にもあるあのグランドメニューを開いたことはない。先輩からはギョーテ以外頼むなと言われていたし、たまに別のものを頼むにしても壁に貼ってある田舎の定食屋かよというような名前の定食を頼んだりだった。周囲の常連さんもメニューは開いていなかったと思う。だからこの店に王将の普通のメニューはないと今でも信じている。本当はあったのかな。

出町店は全国的にも有名な店舗、その独特なメニューもそうだが、皿洗いがやっぱり有名にさせたのだろう。

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様々なメディアに取り上げられているし、漫画「島耕作」シリーズのあるエピソードのモデルにもなっているらしい。ちなみに私はやったことはないし、知り合いがやったという話も聞いたことがない。本当にやっていた人はいるのかと疑問にも思っていたが、調べてみれば実際にいるという。いないと話題にもならないか。

私が過去にこの店を紹介した文章にはこう書いてあった。

餃子の王将 出町店
通称「デマオウ」。私の経験上、餃子定食のコスパは最高。皿洗いで”めし代ただ”、王将なのにグランドメニューはない、独自の割引券などオリジナリティ溢れる店舗。これからも長く続いてほしい。

これからも長く続いてほしい、である。

閉店の理由は”定年退職”だという。フランチャイズ契約がなんちゃら、らしい。詳しいことはよくわからないがあの少し猫背の長身のおっちゃんに何かあったわけでも、王将と喧嘩別れしたわけでもないらしい。それなら良かったのかなと思う。

今更ながら写真を撮ったあの日に店に入らなかったことに後悔している。この店はまだまだ続く、そう思っていたし、京都を離れようとも行こうと思えばいつでも行けるとも思っていた。最後に行ったのはいつだろう。もうずっと行っていなかったことにも改めて気づいた。それでもこの店が思い出の店舗であることには変わらないし、店に行かなくとも誰かに紹介したり、こうやって記事にすることは私なりの愛なのかもしれない。

おっちゃんが私たちにサービスしてくれたことを思い出す。鶏の甘酢みたいなのだったかな。定食にガッついてる大学生4人の目の前に突然皿が置かれた。食え、その一言は親元を離れ1人で暮らす我々にはとても温かいものだった。そんな温かさ、私はずっと胸に持っていたいと思うのだ。おっちゃんの温かさはきっと店を訪れたみんなの中に残っている。店はなくなってもその温かさがなくならければ、それでいいのかもしれない。この先もずっと、おっちゃんの温かさを胸に。誰かの笑顔のために何かできるように。

京都の真ん中、そこにあったのは餃子が結んだ絆。
おっちゃん、ありがとう。ひとまずお疲れ様でした。

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