第20回「旅を書く」
旅のための情報探し
旅の宿を探すときには、ネットの情報を閲覧するのが当たり前になってきました。泊まろうとしているホテルはどんなところか。もちろん最低限の情報は、そのホテルのホーム・ページに書かれていますが、それだけでは情報としては不十分。やはり実際に泊まった人たちの感想などを聞いてみたいと思うものです。
宿泊者の感想はさまざまに書かれています。素晴らしいと書く人もいれば、あまり良くなかったと書きこむ人もいるでしょう。どの感想を信じるかはそれぞれです。
楽々手に入る表面的な情報
さて、情報とは何か。たとえばホテルの客観的な情報は、ホームページを見ればすぐにわかるでしょう。ホテルまでの行き方や運賃。部屋のタイプや宿泊料。朝食のバイキングはどんなものが並ぶのか。ホテルの周辺にはどんな観光施設があるのか。それらの情報はすぐに手に入る時代です。
かつてインターネットがなかった時代には、それらの情報を手に入れることも一苦労でした。まずは周辺の地図を入手して、鉄道の駅や道路を調べる。旅行先が特集されている雑誌があれば、書店に行って買ってくる。そしてある程度ホテルの候補が決まれば、旅行代理店などに足を運んで、ホテルのパンフレットを手に入れます。
このパンフレットが眉唾物だったりもしました。パンフレットに載せられている写真。それはとても美しく写されています。ホテルの宣伝なのですから、そのホテルでいちばん景色の良い場所や、広めの部屋などが紹介されています。これはすばらしいホテルだと期待を胸に行ってみると、そこには古びたホテルが立っていたりする。聞けばパンフレットに載っている写真は二十年前のものだと。そんな経験があったものです。
さて話が逸れましたが、いま読者が求めている情報とは何なのでしょう。旅先での表面的な情報は、ネットを見ればすぐにわかります。ホテルのホームページも随時更新されているでしょうから、昔のように写真に騙されることもありません。いま求められている情報とは、表面的な情報ではなく、経験に基づいた「肌感覚」の情報なのです。
旅を書くなら、肌感覚で
求められている肌感覚情報とは
では「肌感覚の情報」とはどのようなものなのでしょう。たとえば南の島。ネットを見れば「3月の平均気温は20度」と書かれています。表面的にはこの情報があれば持って行く洋服選びもできるでしょう。まあ、長袖のTシャツくらいでいいだろうと。
そこで実際に3月に行った人の文章を読んでみると、「3月の平均気温は20度と聞いていたけれど、私が行った時には15度を下回っていました。寒くて島の中を散歩することもできませんでした」と書かれています。この記事を読むと、「一応は羽織るものを持って行こうか」となるでしょう。これが「肌感覚の情報」なのです。
個人的感想が「旅のエッセイ」になる
皆さんが旅行に行った時に、ぜひ「肌感覚の情報」を文章にしてみてください。空港や駅に下り立ったときに感じた温かさや寒さ。そこにはどんな風が吹いていたのか。太陽はどれくらい近くに感じられたのか。街中を散策しているときに聞こえた音。そしてどこからともなく流れてくる匂い。あなたの五感で感じたことを文章にしてみてはいかがでしょう。そんな個人的な感想でいいのだろうかと思うかもしれませんが、求められているのはそんな「肌感覚の情報」なのです。ネットの中からは得られない情報。パンフレットには書かれていない情報。現地に行った人でなければ感じることができない情報。そんな情報をみつけて、文章にしてみる。
旅のエッセイを書く作家は昔からいました。数ある旅のエッセイのなかで、多くの読者を掴んでいたのは、やはり肌感覚で書かれたエッセイだと思います。表面的には書き手の個人的な感想かもしれません。しかし、その個人的な感想であるからこそ臨場感が生まれるのです。
たとえば「どこそこのソフトクリームはたいへんな人気で、一日に100個も売れます」という記事よりも「あのソフトクリームは、これまで私が食べたなかでも最高に美味しかった。甘さといい、牛乳の香りといい、一口食べただけで口の中に美味しさが広がりました」と書かれていたほうが食べてみたいという気持ちになるものです。あなたが実際に感じた旅の風景を書くことは、とても良い文章の練習になると思います。
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