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西尾維新『キドナプキディング』を読む

『キドナプキディング』を読みました。

西尾維新の、「戯言シリーズ」の続編です。

作家業20周年を記念したプロモーションビデオの最後で存在が発表されたとか。

デビューシリーズに20年の時を経て続編が加わるなんて、
西尾維新、只者ではありません。

デビュー作から存在感を放ったうえ、その後の著作がその威光に隠れることなくむしろ実績を上書きしていると思います。すごいです。

『キドナプキディング』が刊行されると知ったとき、わたしはすでに「戯言シリーズ」の既刊を全て読んでいました。

気に入った作家の作品を刊行順に読み古参ファンの感情を擬似体験するという嗜好が発揮され、高揚感のある動揺をもって、本書を手に取りました。

内容は、良くも悪くも、期待を裏切るものではありませんでした。

青色サヴァンと戯言遣いの娘が人類最強の請負人の手によって久渚本家の面々のもとに連れてこられて、甚大な機械音痴が発覚するというストーリーが、
西尾維新の、雑然と流れるように進行する語り口で語られます。

申し添えますと、
久渚本家の面々のもとに連れてこられてから甚大な機械音痴が発覚するまでの間に、この小説の本筋といえる殺人事件が起こっているのですが、
わたしはあらゆる小説を文体とキャラクターについて楽しんでいるので、ミステリーの部分に特筆すべき感想を抱いていないことを、後ろめたい思いでここに打ち明けます。

西尾維新の文体が好きです。

そのことをどう伝えられるか確信がないので、手始めにこの小説の冒頭、二段組の本文の上段を丸々引用して、小さな喜びをお伝えします。

 私は久渚盾くなぎさじゅん。誇らしきたて
 私立澄百合すみゆり学園に通う高校一年生、十五歳。厳密には寮住まいなので通ってはいない、学校に住んでいるようなものだ。成績は中の上、得意科目は特になし、苦手科目も特になし。それでいいと思っている、なんなら快適だと思っている、精神的に向上心のないお利口さんだ。部活動はアメフト部とチアリーディング部の両方に籍を置いているけれど、どちらも幽霊部員。ユニフォームが欲しかっただけで。将来の夢は週間少年ジャンプまたはマーベルコミックスの編集者。本当は編集長と言いたいところだけれど、誰だってまずは一歩ずつだ。いつかはそれが、五十歩百歩になる。ん?

西尾維新『キドナプキディング』p. 8

この小説を一度読み切って、再び冒頭からぺらぺらと読み始めたとき、
二段落目の「精神的に向上心のないお利口さんだ。」という文言に夏目漱石『こころ』の「精神的に向上心のないものはばかだ。」という科白せりふがオーバーラップして、オマージュされていることに気づいたことが嬉しくて、読書のモチベーションが向上しました。


また、読書の感想を書きます。


〈参考文献〉
・西尾維新『キドナプキディング 青色サヴァンと戯言遣いの娘』講談社、2023年
・「西尾維新デビュー20周年記念PVが公開。『戯言シリーズ』最新作『キドナプキディング 青色サヴァンと戯言遣いの娘』刊行が発表」(ファミ通.com)、2022/8/7更新、https://www.famitsu.com/news/202208/07271369.html、2023/10/30確認
・KODANSHA Books&Comics、西尾維新 20TH ANNIVERSARY MOVIE、https://youtu.be/C5buQLyRel8、2023/10/30確認
・三角洋一ほか28名『新編現代文B』東京書籍、令和4年、p. 148(夏目漱石『こころ』)


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