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【読書】「武田の金、毛利の銀」/垣根 涼介


「光秀の定理」の外伝的な一冊。思いのほかコミカルな要素強めのドタバタ冒険活劇だった。
性格バラバラな男4人が寝食を共にしつつ、悪態つきつつ敵地に潜入する。
目的達成のために逐一作戦を立て、窮地ではその場その場で各々得意分野を活かす。
そこはかとなくRPG感、4人パーティー感があり、気軽に読めた。
ちなみにそのパーティー構成は、

  • 光秀。織田家家臣。信長から武田領の湯之奥金山・毛利領の岩見銀山での金、銀産出量調査の命を受ける。

  • 愚息。光秀の友人の僧侶。元倭寇。武士ではない。

  • 新九郎。光秀の友人の兵法者。剣術の達人。武士ではない。

  • 土屋(後の大久保長安)。武田家家臣。文官。好奇心が旺盛なあまり同行することに。

個人的には苦悩する光秀が好きなので「光秀の定理」が好みではあるけれど、そもそもこの話は光秀が主人公というよりこの4人が主人公なのだと思う。今回は本能寺も関係無いし。
愚息と新九郎の肝の座りよう、未練がましい所の無さがかっこよかった。

終盤、光秀は結果的に騙くらかしつつ帳尻を合わせつつ、信長への報告を行う。
光秀も悪意があるわけではなく、根っこの、和を重んじる性格故にそうなってしまうわけだけれど……。
そのシーンを読みつつ、「いろいろあったけど切り抜けられて良かったなぁ。信長からのお咎めもなくて良かった」と思いつつほっとしていた。

だけど信長は騙されているわけではなかった。
執念深さを感じさせる思考力と分析力で、光秀の報告に嘘があることを見抜いていた。
恐ろしいほどに、その「嘘」が成り立つ可能性を想像し、脳内で辻褄を合わせている。
さっきまで笑いながら報告を聞いていたのに、別れた途端真顔になるような、ひやりとした冷たさを感じた。
「情」から離れ、徹底して俯瞰するような視座が描かれる。
その乾いた空気感は、読んでいて一番引き込まれたシーンだった。

この章のタイトルである『乖離』。
それは金の需要と供給にしばしば乖離が生じている説明であると同時に、
信長と、それ以外の人物達との温度感の乖離を感じさせられた。




(『~でありましたか』という話し方は元々、安芸地方特有の方言だというのを初めて知った。
標準語になったのは、毛利家の元家臣が日本の中央政権に携わるようになった明治維新以降らしい。)




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