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雪の花 -ともに在りて-(2025)

試写会にて鑑賞いたしました。
レジェンド・小泉堯史監督による、丁寧に作られた、正統派時代劇です。

種痘と言えば牛痘種痘法による天然痘予防を江戸幕府公認の免許制とすることで広めた緒方洪庵がまず頭に浮かびますが、牛痘苗を幕府から許可を得て清国から正式に輸入しようとしたのが、この物語の主人公、福井の町医者、笠原良策です。
清国から輸入する前に入手された(同じものから緒方洪庵にも分苗されたようです)牛痘苗を、人から人へ植え継ぐ、という方法で故郷の福井まで届け、私財をなげうって除痘所を設立し、多くの民を死の病から救う、という過酷な実話がベースになっています。

日本の四季の美しい映像を背景にした、旅のシーンの多い作品です。
ある時は天然痘が流行する城下の村へ、ある時は学びを求めて京都へ、そして牛痘苗を故郷福井へと、旅をしているのは良策たちだけでなく、絶やしてしまうと再び入手するのが困難な牛痘苗、穏やかに描かれていますが、命がけの旅に、多くの民間人、しかも小さな子供たちが協力した、という事実には、感謝の念を禁じえません。

種痘の普及を阻んだのは、距離や気候だけではありませんでした。既得権益にしがみつく御用医師による妨害や、デマに踊らされ石を投げる情報弱者と対峙するシーンは、パンデミックから我々を守ろうと奔走された現代の感染症専門医や発熱外来の医療従事者が受けた誹謗中傷とも重なりました。

パンデミックへの対応には、医療者と政治家の正しい知識に基づく適切な連携が不可欠であったことも描かれています。
笠原良策の牛痘苗の輸入や種痘所の創設の成功は、幕末四賢侯の一人に数えられる藩主松平春嶽の後押し無しには語れません。
これもまた、政治家の判断が感染者数に大きな影響を及ぼした、現代の新型ウイルスとの戦いとも通じるところです。

この物語は176年前の史実ですが、パンデミックを経験した現代の私たちが今こそ観るべき作品と思いました。

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