映画のすゝめ:『愛してるって言っておくね』(2020)12分
12分後大切な人を抱きしめたくなる
ダイニングテーブルの端と端に座り、会話もなく黙々と食事をとる夫婦。お互いの影は相手を気に掛けるが、決して交わることはない。サッカーボールが転がった先のドアを閉め哀しむ女性。剥がれた壁を見て涙を堪える男性。夫婦の失ったものとは……。
以降ネタバレ有り。
「愛してるって言っておくね」が両親の言葉ではなく、銃乱射事件に巻き込まれた娘が、最後に両親に送ったメッセージだと知り涙が止まらなかった。
朝、いつも通り「いってらっしゃい」と送り出した娘が、銃乱射事件の被害者となり二度と戻らない。娘が、大切な人が消えた世界で、それでも自分の時間と人生は続いていく。残された両親はやり場のない怒りと哀しみに心を閉ざし、お互いを思いやることもできない。
日本は銃社会ではないから、銃乱射事件の被害者になる可能性は極めて低いかもしれない。それでも交通事故や、予兆のない病気、殺人事件に巻き込まれたりと大切な人の「ただいま」が数時間後に聞けない可能性もある。実際に大切な人を亡くしてみないと、当たり前が当たり前じゃないことを心の底から理解するのは難しいかもしれない。人は失って初めて気づく生き物だから。それでも、今目の前で大切な人が笑っていること、今日もただいまが言えること、聞けること、今の一秒一秒を大切に生きていくこと。心の片隅に置いて、生きていきたい。
最後まで読んでいただきありがとうございました。