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第13回 毎月短歌(テーマ:ゲーム)選評

第13回 毎月短歌(テーマ:ゲーム)の選評です。
〈締切:2024年8月11日分〉

選者を務めさせていただきました友常甘酢です。投稿歌の中で特に印象深かった短歌13首を選ばせていただきました。ゲームそのものを深く詠んだ短歌のみならず、暮らしの中にゲームの要素を見出して詠んだ作品も多く寄せられました。


ドラクエの曲を吹くとき後輩のトランペットは十五度あがる/水川怜
『ドラゴンクエスト』の華やかなオープニング曲を楽器で奏でる場面を、楽器の『音』ではなく『角度』で表現している。この角度の描写が、間接的に音色と心情の描写も成しえていて歌に奥行きが感じられた。物理的にも心情的にも遠くまで音を届けようとしていたことが伺える。主体はこの後輩の姿をどう受け止めたのだろう。どこまでも伸びていく晴れやかな音が読後に残った。


二点差でとられたタイムアウトではモップが機敏にコートをかける/月乃さくは
緊迫した雰囲気の中で絶妙のタイミングで取られたタイムアウト。バスケやバレーの試合の終盤の光景だろうか。そのタイムアウト中にコートをモップ掛けする描写が巧みで、汗を拭いつつ集中力を高めていく選手たちの荒い息遣いがありありと目に浮かんでくる。


来ないかもしれないきみを待つ間レベルが上がり続けるパズル/真朱
レベルアップのたびに華やかな音と映像が発せられ高揚していくゲーム画面とは対照的に、感情は待つにつれて無彩色になり空洞化していくように読み取れた。満たされていくパズルゲームの描写をすることで、満たされない心情の推移がひっそりと表現されていたところが魅力で、本来ゲームで得られるワクワク感とは真逆の、虚しさや寂しさだけがしんしんと読み手に伝わってくる。


十円を拾い交番に届けたレベルアップの音が聞こえた/睡密堂
自分の行動をゲームの中に置いて、善行をした瞬間にレベルアップ音が聞こえた主体。自己肯定の瞬間が明るく軽やかに詠まれている。他者からの賞賛などがなくても、自分で自分の行動を認められることは頼もしく、ゲームの意外な効用が軽快に詠まれていて発見がある。


次々とオセロの角をとるように桜の下は青く染まって/奥 かすみ
お花見の光景では、桜の花のピンク色だけでなく、ブルーシートの鮮やかな青も存在感があるもの。花曇りの灰色の空だと尚更シートの青色は人の意識に入ってくるだろう。花見の席を俯瞰して見つめたことで、いい所からどんどん陣取られて青色になっていく様をオセロと重ねたところが秀逸。読み手に広がりのある春の光景を想起させる歌だと思う。


生きづらさ それはゲームの 始まりさクリア目指さず コンティニューせよ/あだむ
ゲームはクリアを目指すことが大前提。一般的にはそう考える人が多い中、作中主体はクリアではなくコンティニューを目指そうと唱えている。しかも、そのゲームとは生きづらい人生そのもの。継続を目指すという他者に流されない頼もしい言い切りにハッとさせられた。単にクリアしただけでは得られない、継続することの価値や意味を、読者にさらっと投げかけている。結句は命令形でありながら、歌全体としては生きづらさを感じている他者への優しさが滲む。継続にこそ重点を置くべき場が、世の中にはもっとたくさんあるのかもしれない。


ばあちゃんがヤクザのようだ花札を囲む正月みんな集まる/梅雨すみれ
普段はヤクザとは正反対の穏やかで物静かな方なのだろうか。孫の目線でばあちゃんの意外な一面を捉え、思い切った直喩が効いている。ばあちゃんが日頃孫に見せている顔はほんの氷山の一角で、修羅場をくぐり抜けて逞しく生きてきたばあちゃんの真の姿が垣間見えた瞬間だったのかもしれない。


ぷよぷよはどんな思いでいただろう消えゆくことをただ望まれて/白鳥
もし、自分がすべての人に消えてゆくことを望まれたとしたら、どんな心地がするだろうか。 苦しさのあまり感情を消してしまうかもしれない。ゲームで消されてゆくぷよぷよ側に立って詠まれたところが新鮮。このような眼差しが、誰かを救うのかもしれない。


ほかにも、ゲームを通して家族を見つめた歌、この酷暑をゲームと重ねた歌、今注目を集めているNISAを詠み込んだ社会詠など、印象に残った歌が多数ありました。最後まで残した歌の一部を以下にご紹介させていただきます。

案外とマリオカートが上手かったペーパードライバーの母さん/琴里梨央

クエスト中死ぬなのチャットに鼓舞されて今生よりも生きている僕/谷 たにし

熱中症 太陽の下の デスゲーム 勝利のコツは 水分補給/酉果らどん

オンラインゲームで協力した人と今は人生攻略している/花林なずな

カブ買って売り時迷って慎重に腐らした僕 NISAはしない/二度寝計画


ここまで選評をお読みいただきありがとうございました。投稿歌を読んで、思った以上に『ゲーム』の存在が人々の暮らしの中に織り込まれていることに気付かされました。紹介しきれない良歌も多数ありました。素敵な歌をたくさん寄せていただき心より感謝申し上げます。

友常甘酢

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