[agariパフェ日記 vol.9] 手がかかるほどに愛おしい 「栗と柿とアールグレイのパフェ」
「お節の予約、始めます」
この言葉を至るところで見かけるようになって身震いした。
早い、早すぎる。
気持ちがクリスマスに向かう前に、年越しの準備をする前に、まだやることがあるよ。
今は、日本の秋なんだから。
過ごしやすい気候の中で、キレイな紅葉を見て、美味しいものをたくさん食べなきゃ。
先のことにとらわれて、目の前の大事なことを忘れないで!
心の中で静かに叫んでみたりして。
そんなわけで、秋真っ盛りのタイミングで始まったagariの新パフェは『栗と柿とアールグレイのパフェ』
「秋のいいとこ詰め込みました」みたいなこのパフェを食べないことには、地に足つけて次の季節に向かえない。
そう思うわけです。
トップの渋皮煮はどういう存在か
栗の渋皮煮。
渋皮が木目のようでなんとも美しい。
口に入れるとほろっと崩れる。ひと噛みするごとにホクホク食感から栗そのものの優しい甘みが溢れ出す。
食べてしまえば一瞬なんだけど、この渋皮煮は生の栗を取り寄せて一から手作りしている。
これがまぁどれだけ手間と時間のかかることか。
鬼皮は本当に硬いので、ただでさえ剥くのが大変。
さらに、どの工程においても渋皮が傷ついたり剥がれたりするリスクがある。
パフェのトップとして皆様とご対面できるのは、長い道中、渋皮が傷付くことなく形が崩れることもなく完走した渋皮煮だけなのである。
agariオープン当初から、この渋皮煮作りの大部分を担ってくれているのはヨーコさん。
栗パフェの時期になると、鬼皮を剥き続ける日々のヨーコさんは「もう指が痛くて〜」とよく言っている。
手間と時間と愛情をたっぷりかけられた渋皮煮。
私は ヨーコの愛 と呼びたい。
このクリームを食べずして秋とは言えない
お次に登場するのは、栗の生クリーム。
生栗を蒸して中身を取り出した蒸し栗とてんさい糖、塩と水だけで作った栗ジャムを混ぜている。
香り高い栗に、乳製品のコクが加わった濃厚な栗生クリーム。
粉雪のように降りかかっているのは、蒸し栗をすりおろしたもの。
削り節ならぬ、削り栗。
極限まで甘さを抑えたクリームに蒸し栗が加わって、栗そのものの味が舌の上にフワァと広がる。
ケーキのモンブランクリームよりも柔らかで、舌の上でスッと溶ける。余韻まで含めて全部が幸せ。
ところどころに散りばめられた干し柿は、小さいけれど凝縮された甘みがあって、生クリームの甘さと層を成す。
たぶん、この干し柿があるとないとでクリームの味の奥行きが全然違う。
この栗生クリームを食べずして、本当の秋は感じられない。
手がかかる子ほどかわいいのは本当か
ここでどうしても触れておきたいのが、自家製の栗ジャム。
蒸し栗を一つずつほじほじして中身を取り出す。
水を加えたら、浮かんできた渋皮の細かいカケラをひたすら網ですくう。
キレイになったら 火を入れる。
焦げないように片時も止まることなく混ぜ続け、やっとやっと出来上がり。
こうしてできた栗ジャムをベースに、生クリームやアイスを作っているわけです。
「栗はあんなにかわいい形をしてるのに
どれだけ手をかけさせるんだか」
と、私は思ってしまうけど。
ジョナさんはそんな栗のことを
「自分の殻にこもりがちな、引っ込み思案な坊や」だと思っている。
実にびっしりと渋皮をまとい、とても硬い鬼皮で身を守り。
それでは飽き足らず、トゲのついたイガの中に姿を隠す。
そんな様子が、自信のなさを隠すために虚勢を張っているイガグリ坊やに思えて、手間さえも愛らしいのだそう。
だからこそジョナさんは、栗が本来持っている素晴らしさを伝えようとしている。
”こんなに美味しくて、皆に愛されているんだから”
イガグリ坊やが自分の殻を破って
堂々とその場所に立っていられるように
そんな気持ちでパフェを作っている。
・・・
前回のイチジクもそんな感じだったなぁ。
皮の内側に花があるイチジクは、簡単には心を開かない。みたいな。
秋の味覚と称されるものたちって、実はその注目度に反して内向的なのだろうか。
柿の魅力に気付いた瞬間
クリームの下に並ぶのは フレッシュな柿。
柿って爽やかさとは対極にある、濃厚でまったりした甘みの果物だと思っていた。
でも、このパフェで登場する柿は全然違う。
渋皮煮や栗生クリームという重厚感の中で、とても軽やか。
柿が清涼剤的な役割をしているのが、私にはとても新鮮。
正直言うと、今まで「柿大好き!」と思ったことはあまりなかった。
でも、このパフェの柿はとても瑞々しくて出会えるたびにテンションが上がる。
柿がいるから、栗もまたもっと美味しくなる。
今まで食べたいろんな柿の中で、このパフェの中にいる柿が一番好き。
グレードアップしたアールグレイ
中央には栗ジャムのビーガンアイス。
栗ジャムとオーツミルクベースで作られていて、甘さは控えめ。
栗生クリームと栗アイスに、渋皮煮、もしくは柿。
どちらも必須な楽しみ方。
さらに進むと、アールグレイのケーキやゼリーが現れる。
このアールグレイ、「いつもよりワンランク上の茶葉を使っている」そう。
『そんな味の違い、わかるかいな』
と思ったけど、口に入れた瞬間に紅茶の香りがふわぁと口中に広がった。
これが良い茶葉の力か!
アールグレイが使われているのはパウンドケーキと底のゼリー。
栗と柿がしっかり主張をしていても、口に入った瞬間に芳醇な香りを振りまいて全体の味を包み込む。
栗と柿とアールグレイの三つ巴がすごい。
このパフェ、隠し味的にアプリコットを使っているのだけど、それをあと少しでも強くすると味がまとまらないのだとか。
さらに、ローズマリーやキャラメルを効かせようとしてみたけど、やっぱり全く味が決まらなかった。
だから、あえて多くの味を入れ込まず、栗・柿・アールグレイの三つがしっかり手を取り合うようなパフェにしたのだそう。
三つの絆を結ぶリボンクッキー
パフェの受け皿に乗った、リボン型のココアクッキー。
これは、三つの絆を象徴している。
引っ込み思案だった栗がちゃんと姿を現して、柿とアールグレイを手を取り合ったら。
自分が持っている以上の味わいを生み出して、皆を笑顔にできる。
これはきっと人にも言えること。
本当に大切な人はたくさんは必要なくて。それでも2人ぐらいそんな存在がいてくれたら、自分の人生をより楽しく歩めるのかもしれない。
このクッキーを食べながら、”自分にとっての柿やアールグレイは誰かなぁ” なんて想いを馳せてもらえたら素敵だと思う。
なんて言ってみたけど、私はそんなことしていない。
ただ、美味しい美味しいと思って食べた。
目の前にあるものに集中して「あぁ、美味しかった」と一息ついた瞬間も、今を生きている気がしてとても幸せだった。
[Photo : Masayuki Nakano]