【連載小説】トリプルムーン 3/39
赤い月、青い月、緑の月
それぞれの月が浮かぶ異なる世界を、
真っ直ぐな足取りで彷徨い続けている。
世界の仕組みを何も知らない無垢な俺は、
真実を知る彼女の気持ちに、
少しでも辿り着くことが出来るのだろうか?
青春文学パラレルストーリー「トリプルムーン」全39話
1話~31話・・・無料
32話~39話・・・各話100円
マガジン・・・(32話掲載以降:600円)
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***第3話***
彼女はいつも意表を突く質問を投げかけてくる。
研究者の気質がそうさせるのだろうか、彼女の頭の中にはいつも何か不思議な疑問が漂っているのかもしれない。
「そうか?俺は月の色なんて、あんまり気にしたことないけど。」
「いいよ。お月見行こう。オオカミ男に会いに行くのも悪くなさそうだもんね。」
「オオカミ男?」
どうして急にオオカミ男が出てきたのだろう。彼女は別にその手のファンタジーや漫画には特に興味はないはずだ。
「そういえば、あなた今日誕生日だったよね?たしか三十歳の。」
「えっ?あ、ああ、覚えてたのか、俺の誕生日。」
オオカミ男と聞き返した俺の言葉を無視されたのも驚いたが、彼女が俺の誕生日を覚えていたのには更に驚いた。
「誕生日にご飯に誘うっていうのは、デートみたいなものなのかな?」
「いやいや別にそんなんじゃないよ、俺の誕生日なんて気にすることなんてないさ。たまたま思い立った日が今日だっただけだよ。大体、今日は俺の誕生日だから一緒にデートしようぜって、けっこう格好悪いだろ、その誘い方。」
「ふーん、、まあ、たしかに。」
「俺が誕生日だからって、別にプレゼントとかそういうの、気を遣わなくていいからな。」
「ふーん、、」
彼女はなんだか釈然としない様子でとりあえず返事をしていた。
「うん、分かった。じゃあまた夜に会おうね。それじゃあ。」
そう言うと電話は彼女のほうから一方的に切られた。やや唐突な切り方ではあるが、彼女はいつもマイペースな行動をするので、それ自体は特に気にならなかった。
むしろ突然の誘いでもいつも通りの反応だったので、少しほっとしたくらいでもある。ただ、普段とは少し違う言葉を使う彼女が珍しく感じられた。
「オオカミ男?」
理系の彼女がそんなおとぎ話のモチーフを取り出すのは珍しかった。オオカミ男なんて非現実的なものが実際に存在する筈はないだろう。
それは俺や彼女のみならず世間一般の常識とでもいうべき事柄のはずだ。
しかし、天才肌の彼女の思考は俺みたいな凡人には理解できないところがある。もしかすると彼女の中でオオカミ男は、科学的に証明されているリアリティーある生き物なのかもしれない。
何にせよ彼女は夜の誘いにのってくれたのだから、難しい事を考えるのはそれくらいにしておこう。そう思うと俺は、まだ朝も早いというのに出掛ける為の身支度を整えることにした。
いくら気心が知れているとはいえ、女性に合うのだからきちんと身支度は整えなければいけない。たとえそれが五分で片付くほどの何の飾り気のないものであったとしても。
窓からは清らかなそよ風が流れ込み、外ではすずめの鳴き声が群れとなって一つの合唱を始めている。俺は窓辺に立ってカーテンを開けながら、赤い月が沈みかけた西の空を見やった。
そこでゆっくりと流れる大きな雲に目がとまった瞬間、俺はまた最初の疑問に立ち返っていた。
「あいつに何て言えばいいのかな?」
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