【連載小説】トリプルムーン 14/39
赤い月、青い月、緑の月
それぞれの月が浮かぶ異なる世界を、
真っ直ぐな足取りで彷徨い続けている。
世界の仕組みを何も知らない無垢な俺は、
真実を知る彼女の気持ちに、
少しでも辿り着くことが出来るのだろうか?
青春文学パラレルストーリー「トリプルムーン」全39話
1話~31話・・・無料
32話~39話・・・各話100円
マガジン・・・(32話掲載以降:600円)
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***第14話***
「本当?嬉しい。誕生日が来るのが待ちくたびれちゃうくらい楽しみだよ。」
そんな普段通りのやりとりをしたあと、せっかくだから今夜は一緒に食事に出かけようという話になった。
たまには少し贅沢するのも悪くないよね、と彼女に言われ、確かにその通りだなと思って、どんなお店に行こうかとおおまかに二人で雑談をした。
誕生日プレゼントとかは気を遣わなくていいからな、と一応釘は刺しておいたが、それに関してはあまり聞いていないような明るい返事がかえってきただけだった。
きっと今頃、猫のキーホルダーにしようかサボテン柄のハンカチにしようか、必死に考えを巡らせてくれているのだろう。
頭が良いわりに案外考えが読みやすいようなところが、俺が彼女を気に入っているところの一つなのかもしれない。
ひとしきり予定を決めると俺たちは電話を切り、それぞれの時間へと戻った。
俺は大きく伸びをしながら窓を開け、窓辺で育てているサボテンに朝の挨拶をした。
朝の日光浴を満喫しているサボテンは、少し面倒くさそうな気持ちで俺におはようと返事をしてくれた気がした。
先日、紫色のきれいな花を咲かせたばかりのサボテンは、今は日光浴がとても大事な時期だから邪魔しないでくれと言わんばかりに、朝の陽射しを集めるのに貪欲な様子だった。
「今夜は晴れるのかなあ、晴れてれば満月のお月さまが見えるだろうし、そうしたら、あいつと一緒にお月見するのも悪くないかもな。」
俺は昔から月が好きだった。世界中の涙と哀しみを一身に引き受け、それでいて優しく微笑んでいてくれているような、物悲しい顔をしたあの月が。
彼女も月が好きだった。そんなところもウマが合う理由の一つなのかもしれない。
二人でお月見をするのは悪くない、そう思うと、俺は今夜の食事がだんだん楽しみになってきた。
「さあて、朝飯でも食うかな。」
そう言って俺は、ひとまず顔を洗おうと洗面所へ向かった。窓から入り込んできた風はカーテンを揺らしながら、今まで部屋の中にいた空気を抱きかかえ、新鮮な空気と役割を交代するように入れ替わっていった。
その風は、俺の頬を撫で、サボテンの花を揺らし、窓の外へと帰っていきながら、また誰かのもとへと吹き去っていった。
きっと今夜はきれいな満月が浮かんでくれるだろう。すべての哀しみを受け容れてくれる、優しくてきれいな満月が。
それがいったい誰の哀しみなのか、俺にはまったく知るすべもない。しかし、この世界にはそういう存在が必要なのだろう。
誰かの涙を無条件で抱きしめてくれるような、慈愛に満ちた温かくて切ない青色のお月さまが。
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