Fake meat (plant-based meat)は健康に良いのか?~医者の観点から考察してみた~
海外で生活しているとベジタリアンやビーガン(肉類、魚介類の他、卵や乳製品も一切とらない菜食主義者)の人達と会う機会がよくあります。多くのレストランでもベジタリアンやビーガンメニューを提供しています。
彼らのほとんどは宗教上の理由ではなく、自身の健康や地球環境に考慮して、この様な食生活を選んでいます。日本だと「意識高い系」と言われてしまいそうな彼らですが、近年、この様な人達が世界中で増えています。アメリカの人の20~30%はベジタリアンであるという調査結果もあります。
「Beyond Meat(ビヨンド ミート)」
そんななか、アメリカではすでに定番商品としてレストランや一般家庭の食卓に並んでいるのが、2011年にロザンセルスで創業したベンチャー企業が開発した植物肉、「Beyond Meat(ビヨンド ミート)」です。大豆やエンドウ豆などを主原料として、植物だけを使用し、「本物の肉と全く同じ味の食品」の開発を目指しています。
現在、高級スーパーのWhole FoodsやSafeway、Kroger、TARGETなど、全米17,000店で販売されています。またCarl’s Jr.やTGI FRIDAYS、Del Tacoといったレストランに商品を供給しており、全米12,000店のベジタリアンメニューに使用されています。
さらに2019年4月、オーガニックメニューに特化した米国の食事宅配サービス「Trifecta」と提携し、米国50州で「Trifecta」のユーザーに、「Beyond Meat」を使ったハンバーガーなどの提供を開始しました。
「Impossible Burger (インポッシブル バーガー)」
「Beyond Meat」以外に「Impossible Burger (インポッシブル バーガー)」というfake meatも流行しています。「Impossible Burger」を作っているImpossible Foods社はスタンフォード大学の生化学者パット・ブラウン名誉教授がCEOとして率いるシリコンバレーのベンチャー企業です。約130人いる社員の3分の2が科学者であり、牛肉の味に近づけるため分子を解析するなど、5年をかけて開発しました。
Impossible Foods社は有名ハンバーガーチェーンのBURGER KINGとコラボし、「Impossible Burger」をパティに採用したワッパー「Impossible Whopper」を、2019年4月1日からアメリカ・ミズーリ州セントルイスで試験的に販売しています。今回の試験販売が好評であれば、BURGER KINGはアメリカ全店舗で「Impossible Whopper」を提供する予定とのことです。
実際の味はどうなの?
実際にWhole Foodsで「Beyond Meat」を購入し自宅でハンバーガーを料理したことや、お店で「Beyond Meat」を使ったハンバーガーを注文したことがありますが、味はとても美味しく、事前に知っていなければ本物の肉と区別がほとんどつきません。
アメリカでの期待度
「Beyond Meat」のBeyond Meat社がナスダック市場に上場したところ、新規株式公開(IPO)価格の25ドルを大幅に上回り、初日の終値は65.75ドルとなりました。その後も株価は上昇を続け、一時72.95ドルまで上昇しました。Beyond Meat社はIPOで2億4,000万ドル(約350億円)を調達しています。
Impossible Foods社にはMicrosoft社のビル・ゲイツなどの著名人も期待を寄せており、約100億円もの資金を調達できています。
2015年夏、Impossible Foods社はGoogleから3億ドルで買収を打診されましたが、同社の経営陣はより高い金額を求め、最終的に折り合いがつかず破談となりました。Googleはその後、同年10月に関連会社であるGoogle Venturesを通じて同社に投資しています。
そんなfake meatが本当に健康に良いのか考えてみる。
「Beyond Meat」は、エンドウ豆プロテイン、キャノーラ油、片栗粉ほかの植物由来原料を使用しています。肉らしい見た目や色はビーツ果汁で作られています。
「Impossible Burger」は、大豆プロテイン、ココナッツオイルといった材料を使用しています。肉らしい見た目や色はレグヘモグロビンで、マメ科の根に存在する血液に似た成分で作られています。
4オンス(約113g)あたりの栄養
まず大前提として以下の2点を背景知識として頭に入れておいてください。① 一般的な赤身肉や加工肉は健康に良くないこと
世界保健機関(WHO)は赤身肉/加工肉について「発がん性がある」としており、また過去の研究でも、赤身肉/加工肉を多く摂取した人はそうでない人と比べて、糖尿病や心血管疾患に罹患しやすいことがわかっています。
*WHOによる定義
赤身肉:牛肉、豚肉や羊の肉など。
精製された肉:ホットドッグ、ソーセージ、ハム、ベーコンなど。
② 植物性タンパク質(ナッツなどの豆類由来)の摂取は健康に良いこと
2011年に発表された約37,000人を対象とした研究では、精製された赤身肉を多く摂取した人は、あまり食べない人と比較して糖尿病発症リスクが高まることがわかりました。具体的には、1日に赤身肉または精製された肉を多く摂取した人は、糖尿病の発症リスクが12~32%も上昇したのです。一方、全粒穀物からタンパク質を多く摂取した人は、糖尿病の発症リスクが16~35%も低下する結果となりました。
また、2012年に発表された約12万人を対象とした研究によると、1日3オンス(約85g)の魚やナッツ・豆類といったタンパク質(精製肉や赤身肉ではない)を摂取すると、心血管疾患のリスクが13%減少することがわかりました。一方、1日に1.5オンス(約42.5g)の精製肉や赤身肉 (ホットドッグ1個の量に相当) を摂取すると、心血管疾患のリスクが20%も増加しました。つまり赤身肉の摂取は心血管疾患の心血管リスク上昇と相関があるということです。
fake meat と実際の牛肉の一番の違いは、植物性タンパク質であるのか、それとも動物性タンパク質であるのかという点です。上記の研究からすると、動物性タンパク質の過剰摂取は我々の健康に良くない一方、fake meatは我々の健康に良いと考えられます。
タンパク質以外の成分はどうなのか、具体的に比較して議論していきます。
Fake meat の特徴
① 実際の牛肉と比較してカロリーに大きな違いはありません。
総カロリーよりも実際の成分の違い、成分の質に注目してください。
(ア)fake meatにはコレステロールがほとんど含まれていません。血中コレステロールの増加は心筋梗塞や脳梗塞などの心血管系疾患のリスク因子です。食事に含まれるコレステロールは我々の血中コレステロールとあまり関係がないとの報告もありますが、とはいえ過剰の摂取は良くありません。コレステロールの点でもfake meatの方が良いでしょう。
(イ)fake meatには食物繊維が含まれています。日本人やアメリカ人の多くは、食物繊維の摂取が足りていないと言われています。アメリカの場合、1日に20~30gの食物繊維の摂取が推奨されていますが、実際に摂取できている量は15gにも達していません。
食物繊維の摂取は腸内環境を改善し、便秘の解消につながります。また、心臓疾患や糖尿病を予防できることが過去の研究で分かっているほか、様々な疾患のリスクとなるLDLコレステロール値の低下や慢性炎症の改善についても、食物繊維の摂取による良い影響が期待されています。一部の研究では、食物繊維の摂取は大腸がんに対して予防的効果を持つ、とも言われています。さらに、腸内環境を良くすることにより、自己免疫性疾患やメンタル疾患に対しても良い影響を与える、とされています。現代人は食物繊維の摂取が少ないので、食物繊維の摂取ができるfake meatは効果的でしょう。
② fake meatのデメリットとしては、塩分が多いということです。WHOは1日の塩分摂取量として5g未満を推奨しています。日本人の平均塩分摂取量は10~11g程度であり、いまだに多いのが現状です。塩分の過剰摂取は、動脈硬化、高血圧、慢性腎臓病や心血管疾患を引き起こします。特に日本人は白人などと比較して、塩分の過剰摂取によってこれらの疾患になりやすいと言われています。
③ 使われている油について
(ア) キャノーラ油は、たとえオーガニックやnon-GMO製であっても、我々の健康には良くないと言われています。キャノーラ油は一般的によく使われている油ですが、炎症作用や酸化作用があり、心血管疾患のリスク因子であると考えられています。
(イ) ココナッツオイルは、主成分である中鎖脂肪酸の吸収が早く、すぐにエネルギーとして使われるために健康に良いと考えられてきました。しかし、2017年にAHA(The American Heart Association)が、ココナッツオイルはLDLコレステロール値を上昇させ、心血管疾患のリスクになるために制限した方が良いと発表しています。以上より、現在ではココナッツオイルの過剰摂取は推奨されないということになっています。
つまりどうなのか?
Fake meat(plant-based meat)は動物性のタンパク質を摂取することなく、ハンバーガーが食べられるというのが最大のメリットです。しかし、過剰な塩分や不健康な油を使用していることから、現時点では通常のハンバーガーの代わりに食べるなどといったことは積極的に薦められないというのが結論です。
(Fake meatが体に悪いという意味ではなく、健康のために本物のハンバーガーの代わりに食べなくてもいいという意味です。)
しかし、plant-based meatは環境に良いとされています。牛肉の場合、飼育する過程で大量の水や肥料が必要になりますが、plant-based meatの場合、20分の1の土地、4分の1の水で十分であり、さらに温室効果ガスも8分の1に減らすことができると言われています。
個人的には今後は更に改良され、人間にも地球にも良い製品になることを強く期待したい!!
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